コラム

カネと権力に取り憑かれた「メディアの帝王」マードックが残した「負の遺産」

2023年09月22日(金)21時06分
ルパート・マードック

ルパート・マードック(2019年2月) Danny Moloshok-Reuters

<ルパート・マードック氏が経営の一線からの引退を表明。後継者の長男は「父のビジョン、開拓者精神、揺るぎない決意、不朽の遺産に感謝」>

[ロンドン発]1954年にオーストラリア南部アデレードの小さな新聞社を父親から引き継いで約70年、米国、英国、オーストラリアの新聞・テレビを支配してきた「メディアの帝王」ことルパート・マードック氏(92)が21日、FOXコーポレーションとニューズ・コーポレーションの取締役会会長を退任すると電撃発表した。

FOXの発表では、マードック氏は11月中旬開催予定の株主総会でそれぞれの取締役会長を退任。マードック氏は両社の名誉会長に退き、長男のラクラン・マードック氏が単独でニューズ・コーポレーション社の会長となり、FOXの常勤会長兼最高経営責任者(CEO)を継続する。

ラクラン氏は「FOXとニューズ・コーポレーションの取締役会、リーダーシップ・チーム、そして父の努力の恩恵を受けたすべての株主を代表して、父の70年に及ぶ素晴らしいキャリアを祝福する。父のビジョン、開拓者精神、揺るぎない決意、父が設立した企業や彼が影響を与えた無数の人々に残した不朽の遺産に感謝する」と述べた。

「われわれは彼が名誉会長を務めてくれることに感謝する。彼が両社に価値ある助言を提供し続けてくれることを確信している」とラクマン氏は続けた。マードック氏は社員に「職業人生のすべてにおいて日々ニュースやアイデアに携わってきた。しかし異なる役割を担うべき時が来た。新しい役割として毎日アイデアのコンテストに参加する」と伝えたという。

マードック流「部数拡大の方程式」とは

英名門オックスフォード大学で学んだマードック氏はロンドン・デーリー・エクスプレスの編集者として働いたあと、オーストラリアに戻り、アデレードのサンデー・メール紙とザ・ニュース紙を引き継いで部数を拡大させた。シドニー、パース、メルボルン、ブリスベンの新聞を次々と買収し、1969年に英国に進出した。

マードック流「部数拡大の方程式」は堅苦しい「社会の木鐸」としてより娯楽と本音をセンセーショナルに伝えることだった。犯罪、セックス、スキャンダル、人情話、スポーツに重点を置き、大胆な見出しをつける。オブラートを着せずに保守的な論説をそのまま紙面にぶつけ、大衆日曜紙ニューズ・オブ・ザ・ワールド(廃刊)、大衆紙サン紙で成功を収めた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IEA、今年の石油需要伸び予測を下方修正 OPEC

ビジネス

訂正(14日配信記事・発表者側の申し出)シャープ、

ビジネス

中東欧・中東などの成長予想引き下げ、欧州開銀「2つ

ビジネス

英バーバリー、通年で34%減益 第4四半期の中国売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story