コラム

「岸田新首相は中国に圧力を」英保守党重鎮が訴え

2021年10月04日(月)21時30分
ジョンソン英首相

保守党大会でスナク財務省のスピーチに拍手するジョンソン首相(10月4日) Toby Melville-REUTERS

<AUKUSであれクアッドであれ中国を封じ込めるには非人道的な対中投資は減らさねばならない──英保守党の党大会では、対中強硬論と日本に対する期待が聞かれた>

[英イングランド北西部マンチェスター発]英与党・保守党の年次党大会が3日から4日間の日程で英イングランド北西部マンチェスターで始まった。ワクチン接種で16万人近い死者を出したコロナ危機がようやく収束に向かい、景気回復や格差解消が主要テーマとして活発に議論される中、経済だけでなく軍事的にも台頭、香港や中国新疆ウイグル自治区の少数民族を弾圧し、新型コロナウイルスの発生源となった中国への強硬論が聞こえてくる。

保守党のデービッド・キャメロン元首相は「英中黄金時代」をうたい、2015年に中国の習近平国家主席を国賓として招いた。翌16年の国民投票で欧州連合(EU)離脱を選択したイギリスはテリーザ・メイ前首相になり、初めて中国への警戒を強める。香港国家安全維持法で返還後50年は「一国二制度は不変」とうたった英中共同宣言を一方的に反故にされ、香港やウイグル族の弾圧、コロナ被害を広げた隠蔽でイギリスの対中感情は一気に悪化した。

英議会は駐英中国大使を出入り禁止に

英議会で対中強硬論や新疆ウイグル自治区の人権弾圧に対する制裁を主導した下院議員5人と上院議員2人は今年3月、渡航禁止や資産凍結など中国の制裁リストに加えられた。対抗措置として英議会は9月、超党派グループが主催する下院レセプションに招待された鄭瑞光・駐英中国大使の議会への出入りを禁止した。在英中国大使館は「両国の利益を損なう卑劣な行為」と批判した。

香港の人権問題に取り組む英団体「香港ウォッチ」は保守党大会で集会を開き、報告書「ESG (環境・社会・企業統治の観点から企業の将来性や持続性などを分析・評価すること) 中国と人権 なぜ投資家が行動を起こす時が来たのか」を発表した。その中で「中国とグローバル金融市場の結びつきは強まり、欧米の年金基金、政府系ファンドなどによる中国への投資はかつてないほど膨張している」と警鐘を鳴らした。

対中投資増は「悲劇的な過ち」ソロス

今年7月、英紙フィナンシャル・タイムズは世界の中国株・債券の保有額は1年間で約40%増え8千億ドル(約89兆円)を突破したと報じた。世界最大の資産運用会社であるブラックロックは8月、中国への投資を最大で3倍に増やすことを提案。これに対し、著名投資家ジョージ・ソロス氏は米紙ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で「悲劇的な過ちだ。アメリカを含む民主主義国家の安全保障にダメージを与える公算が大きい」と指摘した。

香港ウォッチの報告書は「ESG投資の時代に中国投資は正当化されるのか」と問いかけている。「投資会社は中国のポートフォリオとESGの優先事項との間には何の矛盾もないと主張している。環境は注目されるのに、人権は無視されている」。例えば今年7月、J.P.モルガンの新興市場債券インデックスESG版に含まれる債券の34%以上が中国によって発行されていた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CPI、4月は前年比3.4%上昇に鈍化 利下げ期

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story