コラム

ブレークスルー感染はこうして防げ 英オックスフォード大学がツール開発

2021年09月21日(火)18時34分

今回、研究チームが開発したブレークスルー感染リスクアルゴリズムは現在、診察時にコロナ感染に対する患者の脆弱度を見積もるために使用しているNHS(英国民医療サービス)リスク予測ツールの最新版として使用される。オンラインで学術的にも利用できるようにするが、臨床ガイダンスは付けていないという。

英キングス・カレッジ・ロンドンのペニー・ウォード客員教授(薬学)は「ワクチン接種にかかわらず、高齢者、ワクチンの効き目が弱い免疫不全患者、既往症を持つ人がブレークスルー感染をした場合、より重いリスクをもたらすことが今回の研究で分かった」と指摘する。

「追加の治療が必要なグループを特定できる。感染者と接触した場合や実際に感染した場合に抗体カクテル療法による感染予防や早期治療が可能になる。ハイリスクを抱える人は3回目の接種を受けると免疫応答が高まるだろう」

ピーター・イングリッシュ前英医師会(BMA)公衆衛生医学委員会委員長はこう語る。「時間が経過し、より多くのデータが蓄積され、より多くの仮説が検証されることによってツールはさらに改良される。感染者全員に抗ウイルス剤や抗体カクテル療法を施して重症化するのを防ぐことはできないが、このようなツールで追加の治療が必要な人々を特定できる」

接触制限についてもブレークスルー感染によるリスクの度合いに応じて自主的に決めることができるようになるかもしれない。

コロナ治療薬の確保に2352億円

すでに退陣が決まっている菅政権は8月27日の閣議で(1)ワクチン関連で8415億円(2)コロナ治療薬の抗体カクテル療法「ロナプリーブ」、抗ウイルス薬「ベクルリー(レムデシビル)」の確保に2352億円など総額1兆4226億円を支出することを決めたため、新型コロナウイルス感染症対策予備費の残額は2兆5654億円となった。

米大統領選の最中にコロナに感染したドナルド・トランプ前大統領の治療にも使われたロナプリーブの効き目は絶大だ。イギリスの臨床試験でもコロナに対する独自の抗体反応がなかった患者に投与すると死亡率が5分の1に減少した。日本政府は30万回分を追加購入する方針を決めた。すでに確保している20万回分と合わせると計50万回分だ。

イギリスの医療予算には限りがあるが、日本では人の命は地球より重い。レムデシビルはお一人様約38万円。抗体カクテル療法ロナプリーブはバイデン現米政権が1回当たり2100ドル(23万円)で製薬会社から調達している。日本にはおそらくプレミア付きで輸出されるはずだ。医療経済を考えるとまずワクチンを展開して入院患者を減らすことが最善策だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story