コラム

「人道大国」がどんどん不機嫌になる理由 北欧スウェーデンでも極右政党が台頭

2018年09月06日(木)13時20分

スウェーデンのイェーテボリで街頭演説を行うスウェーデン民主党のオーケソン党首 Adam Ihse/REUTERS

[ロンドン発]寛容と福祉国家の国として知られる北欧のスウェーデンでも反移民・難民を叫ぶ極右政党が台頭している。9月9日に迫ってきた総選挙(定数349、比例制)で、ネオナチの起源を持つスウェーデン民主党が議会第1党をうかがう勢いを見せている。

ジミー・オーケソン党首(39)はTVや街頭演説で「スウェーデンに住む人はこの国の社会に適応する必要がある」と、移民規制の強化を繰り返し訴えている。同党が標的にするのはスウェーデンの価値に従わないイスラム系移民、難民、犯罪、社会自由主義、多文化主義である。

世論調査では与党の社会民主労働党が首位を走るが、8月30日のSetioと同月30日~9月1日のYouGovの調査でスウェーデン民主党(それぞれ24%と24.8%)が社会民主労働党(同22.1%、23.8%)を僅差で逆転して首位に立った。

ついこの間まで完全雇用、高福祉高負担の成功例としてもてはやされた「スウェーデン・モデル」は一体どうしてしまったのか。背景には移民や難民に対する嫌悪、排外主義が渦巻いている。

福祉大国に変わりはないが

スウェーデンの成長率は3.3%。失業率は6%。2015年時点の国民負担率は56.9%で、日本の42.6%(財政赤字を含めた潜在的な国民負担率は48.7%)より高い。所得格差を示すジニ係数(1に近づくほど格差が広がる)は13年の0.268から16年には0.282に上昇したものの、米国の0.39、英国の0.35に比べると随分、低い。

穏健党のカール・ビルト首相時代(1991~94年)に市場主義を導入したものの、スウェーデンはまだまだ世界に冠たる福祉国家だ。しかしその寛容の理念が逆に人を不機嫌に、そして不寛容にしてしまう。

同国の犯罪防止国民会議の調査では2016年に国民の15.6%が暴行や脅迫、性犯罪、強盗などの被害に遭っていた。前年の13.3%から上昇し、06年に統計がとられるようになってから最悪を記録。05~14年には平均0.9%だった性犯罪は2.4%に跳ね上がり、若い女性の14%が被害を訴えた。

移民2世、3世の若者がギャング団を結成し、銃を使った殺人が多発するようになり、1990年代は年4件だったのが昨年は10倍の約40件にまで膨れ上がった。銃撃事件は306件。今年8月には南西部ヨーテボリ郊外で100台以上の車が放火され、容疑者の1人がトルコで拘束された。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシアGDP、第1四半期は前年比4.2%増 輸

ビジネス

大和証G、26年度までの年間配当下限を44円に設定

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ弾道ミサイル発射=韓国軍

ワールド

ロシア、対西側外交は危機管理モード─外務次官=タス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story