コラム

生き残る自動車メーカーは4社だけ? 「ゴーン追放後」の日産にXデーが迫る

2020年07月10日(金)12時18分

YUYA SHINOーREUTERS

<ゴーン元CEOを追放して拡大路線と決別した日産だが、業界の趨勢を見ると自ら破滅の道を選んでいるようにしか思えない>

日産が巨額赤字に苦しんでいる。昨年12月に新CEOに就任した内田誠氏は、従来の拡大路線から決別し、身の丈にあった経営を目指すとしている。だが同社が拡大路線を追求してきたのは、100年に1度のパラダイム・シフトを迎えた自動者業界では、もはやトップメーカー以外は生き残れないという厳しい現実があったからだ。

ルノーとの統合も事実上白紙になった今、中規模メーカーとして生き残りを図ることは拡大路線の追求よりもはるかに難しい。

日産の2020年3月期決算は、売上高が前年比14.6%減の9兆8788億円、最終損益は6712億円の赤字となった。メディアには「カルロス・ゴーン元CEOによる拡大路線のツケ」といった見出しが躍るが、そのような単純な話ではない。前年比で約15%も売上高が減少するのは異常事態であり、拡大路線が行き詰まった程度のことでは、これほどの落ち込みにはならない。

実際、ルノー・日産連合とトップ争いをしていたトヨタ自動車は横ばいを維持しており、同じくライバルのフォルクスワーゲンに至っては増収だったことを考え合わせると、日産の組織がまともに機能していなかった可能性について指摘せざるを得ない。

業界の転換期に社内では権力闘争

ドル箱だった北米市場の頭打ちが鮮明となったのは18年で、各社は対応に全力を注いできた。こうした大事な時期に社内の権力闘争に明け暮れ、日々の経営をおざなりにしたことが巨額赤字の原因である。あえてその責任を問うならば、ゴーン氏を追放したものの、不正収入が発覚して19年に辞任した西川廣人前CEOであることは明白だろう。

新CEOの内田氏は、従来の拡大路線は誤りだったと発言し、拡大路線からの決別を表明している。日産がボロボロの状態になってからトップに就いた内田氏にとって選択肢はなかっただろうが、規模を追わず中堅メーカーとして生き残ることがどれほど難しいのかについては、内田氏が一番よく知っているはずだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アマゾン、シンガポールで1.3兆円投資 クラウドイ

ワールド

トランプ氏公判を無期延期、機密文書持ち出し 米地裁

ビジネス

米オキシデンタル、第1四半期は利益が予想上回る 原

ビジネス

ゴールドマン、副会長に元ダラス地区連銀総裁のカプラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story