コラム

データ分散経済到来の日は近い──プラットフォーマーのビジネスはいずれ終焉を迎える

2018年04月17日(火)13時30分

写真はイメージです。 chombosan-iStock.

<完全に企業の手中にある個人情報管理の主導権だが、利用者も徐々にその弊害を意識し始めた。ブロックチェーン技術の応用で、FBやグーグルが不要な社会を作るのも不可能じゃない>

米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が、データ不正流用問題に関して議会証言に立ち、同社の責任を正式に認めた。今回の出来事は、長い時間軸で見た場合、データ中央集権型経済からデータ分散型経済への転換点となるかもしれない。

データの中央集権化が進んできた

ここ数年、ITビジネスにおけるデータの中央集権化が急速な勢いで進んできた。これまでの時代は、個人の情報を網羅的に管理したり、利用するための手段がなかったことから、個人の情報は必然的に個人に属していた。こうした状況を一気に変えたのが、ネット・サービスの拡大とスマホの普及である。

アマゾンに代表されるネット通販企業は、利用者の購買履歴を徹底的に活用することで急激に売上高を伸ばしてきた。AI(人工知能)を使った分析を実施すれば、利用者自身ですら自覚できなかった好みを事業者が探り出し、お勧め商品の販売につなげることができる。 

一方、フェイスブックのようなSNS企業は、顧客の属性を分析することで最適な広告を配信している。SNSの場合、年齢や職業、価値観やライフスタイルなど、あらゆる情報が分析対象となり、利用者の属性が筒抜けになってしまう。そうであるがゆえに、不正にデータを入手し、その情報を選挙活動に流用する人も出てくることになる。

従来型の社会では、アンケートへの記入など、情報を提供していることについて利用者が自覚する機会があった。だが、ネット企業による情報収集は、利用者本人に自覚がないまま実施されているケースが多く、画面が小さいスマホの普及はこうした状況にさらに拍車をかけている。ネット・ビジネスの進展によって、個人情報を管理する主導権は、個人から企業に完全にシフトしたといってよいだろう。

ネット企業によるデータの集中化はそれだけではない。

アマゾンはネット通販で製品を販売するだけでなく、AWS(Amazon Web Services)というクラウド・サービスを提供しており、企業情報システムの管理や運用までも手掛けている。以前の情報システムは、各企業が個別にサーバーを保有する形で構築されていたが、クラウドの場合、各企業のサーバーはアマゾンやマイクロソフトといった特定事業者のデータセンターにすべて移管されてしまう。

各企業がバラバラにシステムを構築するよりも、ひとつのデータセンターで集中管理した方が効率がよく、コストも安い。こうした事情から、情報だけでなく情報を取り扱うシステムそのものの集中化も進んできたのである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

野村HD、1―3月期純利益は568億円 前年同期比

ビジネス

LSEGのCEO報酬、年最大1300万ポンド強に 

ワールド

コロンビア大を告発、デモ参加者逮捕巡り親パレスチナ

ビジネス

タイ自動車生産、3月は前年比-23% ピックアップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story