コラム

給料前払い制度の急拡大が意味すること

2018年01月23日(火)13時00分

写真はイメージです。 chameleonseye-iStock.

<賛否両論の給料前払いサービスの二―ズは、かなり切実な理由からきている。さらなる格差社会の幕開けか...>

このところ給料の前払い(日払い)に対応する企業が増えているという。ネット上では「ウチの会社でも対応して欲しい」という声や「過剰消費を促進するのでよくない」といった意見が飛び交っている。だが、状況はもう少し深刻かもしれない。マクロ的に見た場合、給料の前払いは労働者の階層化という動きに関係しており、賃貸住宅市場にも影響を与える可能性がある。

フィンテックの進展はこんなところにも

日本ではほとんどの企業が月給制を採用しており、たいていの場合、月末(25日の企業が多い)の給料日にならないと賃金を受け取ることができない。月末が近づくとお金が足りなくなるので、給料を早く払って欲しいと考えるサラリーマン少なくない。

社員ごとに給与の支払いサイクルが変わると事務処理が複雑になってしまうことや、キャッシュフローが悪化することなどから、多くの企業が前払いには消極的だった。こうした状況に目を付けたのが「給料の前払い」サービスである。フィンテック関係のベンチャー企業や金融機関などがこうしたサービスを提供している。

前払いサービスに契約した企業の社員は、給料日前であってもスマホのアプリで申し込めば、当日もしくは翌日に欲しい金額が指定口座に振り込まれる。従来なら、前払い制度がある企業であっても、人事や経理への申請手続きが必要だった。しかし、これらのサービスは上司の承認も必要なく、アプリをタップするだけなので気軽に利用できる。社員の心理的な抵抗感は一気に薄れるはずだ。

前払いの費用はサービス提供会社が立て替えるケースが多く、企業側には資金的負担が生じないことも導入を後押ししている。もっとも支払額には上限があり、たいていの場合、その月に従業員が働いた分までとなっている。それを超えて支払いを受けることはできないが、その範囲なら何度でも振り込みが可能というパターンが多い。

企業の求人活動において、給料の前払いに対応できるかは重要なポイントとなりつつある。人手不足が深刻化していることから、前払いの制度を用意していないと求人で不利になるケースも出てきているという。

労働者の賃金が下がっており、生活が苦しくなっている

ネット上では「こうしたサービスが普及すると過剰消費につながる」といった意見も見られる。確かに一部の社員は、こうした制度を乱用して、遊興費など過剰消費に走ってしまうかもしれない。前払いが融資に相当するのかという部分において法的リスクを指摘する声もある。

だが経済的にはまた別の見方もできる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

行き過ぎた動き「正すこと必要」=為替について鈴木財

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 6

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story