コラム

北海道新幹線は、採算が合わないことが分かっているのになぜ開通させたのか?

2016年04月12日(火)14時33分

 整備新幹線というのは今から40年以上も前に策定された、全国に新幹線を通すための開発計画である。これによって、北海道新幹線、東北新幹線、北陸新幹線、九州新幹線(鹿児島ルート)、九州新幹線(長崎ルート)の5つが計画された。当初は、財源として旧国鉄の自己資金と財政投融資資金が想定されるなど、国費投入が大前提だったが、ここで大きな問題が発生する。旧国鉄の廃止である。

 1987年、旧国鉄はJR各社(北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州、貨物)に分割民営化された。民営化後の経営戦略は、各社が民間企業として独自に策定すべきものだが、整備新幹線計画だけはそのまま国策として残された。東京-仙台という採算性の高い路線を持つ東北新幹線においては大きな問題は発生しなかったが、採算が合わない北海道新幹線でその矛盾が露呈してしまった格好だ。

新幹線の運賃は極めて高く、若者は気軽に乗れない

 JR北海道は形式的には民間会社になっているものの、実質的には国鉄のままという状況に近い。JR北海道の株式はすべて独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)」が保有しており、代表権を持つ役員の人事には閣議の了解が必要とされている。

 またJR北海道は自力での事業継続が不可能であり、実質的には赤字経営が続いている。分割民営化に際しては「経営安定化基金」と呼ばれる資金がJR北海道に提供されたが、この資金の多くは株主である鉄道・運輸機構に特別に高い金利で貸し付けられている。JR北海道はこの金利収入がなければ事業を継続できないという現実を考えると、JR北海道は実質的に政府が保有し、税金で赤字の補填が行われている組織と解釈してよいだろう。

 さらにいうと、新幹線の設備負担についても各種の軽減策が適用されている。北海道新幹線の設備を保有しているのはJR北海道ではなく、鉄道・運輸機構である。同機構にJR北海道が支払う設備の賃借料は年間わずか 1億1400万円であり、JR北海道はタダ同然で新幹線の設備を利用している。また、JR東日本は年間22億円の受益負担をJR北海道に支払う計画となっており、JR東日本も間接的に北海道新幹線を支援する構図だ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story