コラム

「世界最多の新型コロナ感染者数」それでもアメリカの覇権が続く理由

2020年04月01日(水)15時50分

コロナ危機でアメリカの存在感は高まっている JONATHAN ERNST-REUTERS

<アメリカをハブとした国際秩序が崩壊しない証左は危機最中の経済指標に現れている>

パンデミックと言えば、中世のペスト。ヨーロッパでは14世紀半ばから70余年の間に、人口の3分の1以上が死亡したと推定されている。

だが皮肉なことに、人口の激減で実質賃金が上昇し、消費が増え、長期経済成長を実現した「長い世紀」へとつながる。ペストは、産業革命と国民国家の登場を告げるものとなった。

では、「コロナ後の世界」はどうなる? それぞれが鎖国してばらばらになった世界で、米・中・ロシアといった大国がむき出しの力で覇を競い合う時代が来るのか?

ヨーロッパではNATOが4月から、3万7000人を動員しての冷戦後最大規模の軍事演習を計画。アメリカからは実に22万の将兵が装備と共に海を渡り、主役を演ずるはずだった。クリミア併合でロシアの脅威が増大したと見立てての演習である。

しかし新型コロナウイルスの拡散防止のため、演習への参加を大幅に削減。さらにトランプ米大統領は、6月にキャンプデービッドで行うはずだったG7首脳会議をテレビ会議に変更すると発表した。アメリカをハブとする戦後の国際秩序体制は、コロナウイルスでついに破壊されたかに見える。

だが、中国とロシアを見れば、アメリカ以上の窮状にある。中国は、トランプの高関税政策と新型肺炎の合わせ技で大打撃を受けている。延期した全国人民代表大会を何としてでも開くため、都合の悪いことは無理やりにでも隠蔽し、国民と世界の反発を呼ぶだろう。一帯一路のような外交イニシアチブを続ける力も、もはやあるまい。

ロシアでは、プーチンが憲法を変えてまでも大統領に座し続ける姿勢を示したのとほぼ同時に、この20年にわたり彼の成功を支えてきた原油が高値圏から崩落。昨年には1バレル=65ドル周辺で推移していた油価が今では20ドル、つまり年前の水準に戻ってしまった。元のもくあみである。

ロシアはこの数年、自国を核とする経済圏「ユーラシア経済連合」を拡大するべく、ウズベキスタンなどに露骨な圧力をかけてきたが、これももう終わりだ。プーチン延命を可能とする憲法改正は、4月22日に国民投票に付される予定だったが、新型コロナの影響で6月以降への延期を迫られている。この間にプーチン延命への反対機運は高まり、国内情勢は不安定化するだろう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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