コラム

「桜を見る会」よりもポスト安倍の世界に目を向けよ

2019年11月19日(火)18時10分

「花見問題」で釈明に追われるが KIM KYUNG HOONーREUTERS

<総理大臣1人をすげ替えても意味はない。求められるのは欧米型民主主義からの脱却だ>

11月20日、安倍政権は日本憲政史上最長の政権となった。

いくつかの幸運、つまり民主党前政権への深い幻滅、長期の円安で輸出主導の成長が可能だったこと、2001年の省庁再編以来、首相官邸(内閣官房と内閣府)の権限が強化されたことなどがこれを支えた。

その安倍晋三首相が身を引くとき、後任は自民党内のたらい回しで決められることだろう(党員・党友による総裁選を受けてだが)。しかし、その直後に総選挙をしなければ、国民は次期首相を受け入れまい。権利意識が増した日本国民は、首相を自分の手で選出したがっているのであり、だからこそ山本太郎元参議院議員や小池百合子東京都知事のように、既存政党内の手続きを経ない政治家が急激に支持を得る。

もっとも、いくら国民が支持する政治家でも政権に就けばボロを出すに決まっている。それは能力不足と言うよりも、複雑化・流動化・粒状化した現代社会を1人の指導者が全て仕切るのがそもそも無理で、それこそファシズムを内包した手法だからだ。安全保障では最高司令官が必要だが、経済や社会問題では決定権を1人に集中させる必要はない。個々人の自由や平均的な生活水準を保障する政体は、大統領や首相をトップとする近代国民国家モデルに限られるわけではない。

そしてものごとを二分化し、多数決で二者択一を迫り、少数派を圧迫する近代欧米型の民主主義は日本人にそぐわない。日本はムラ社会を庄屋がまとめるやり方、つまり同等な自営農家から成るムラを根回しに基づく同意形成でまとめてきた社会である。それは全員参加の決定であり、「野党」はあり得ない。だからこそ、日本は今回も自民党の長期政権に落ち着いてしまったのだ。

近代欧米型の政治にメスを

いや、話が飛び過ぎた。当面の話をすれば、アメリカの金融バブルが破裂して世界不況に陥れば、山本太郎のような新顔が急激に台頭するだろう。それを機に、自民党も含めた政党の「ガラガラポン」(再編成)が起きるかもしれない。激動期に見えるかもしれないが、企業と官僚が持ちこたえれば、日本人の生活は回っていく。

だから政治家たちの「出入り」は政治家に任せておいて、2つのことを考える必要がある。1つは、官邸による政策主導権限の強化はいいことだとしても(大きな決定を迅速にできる)、官邸の補佐官や秘書官、参与たちの担ぐ政策や方針の成果を検証するメカニズムがない。これでは独裁や衆愚政治を許すというものだ。彼らに国会での答弁義務を負わせるべきである。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホンダ、電動化とソフトへ投資倍増 30年度までに1

ワールド

中国、生産能力過剰論に反論 米欧の「露骨な貿易保護

ワールド

ウクライナが米欧を戦争に巻き込む恐れ、プーチン氏側

ビジネス

商業用不動産、ユーロ圏金融システムの弱点=ECB金
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story