コラム

イングランド代表の熱心なファンが、そろいもそろって「弱小クラブのサポーター」なわけ

2023年09月25日(月)14時55分

ブロツワフに着くと、イングランド人の多さに驚いた。彼らは興味深い博物館や史跡を訪れるのではなく、昼下がりから中心街の広場で飲んだくれているから、簡単に見分けられる。それに彼らはイングランドのTシャツなど何かしらイングランド人と分かるものを着ていたり、果てはイングランド国旗を持ち歩いたりしているから一目瞭然だ。

どうやら僕は、2024年欧州選手権(ユーロ)予選のイングランド対ウクライナ戦が、ウクライナでは開催できないので中立のブロツワフで行われていたのに気付いていなかったようだ。

お気に入りの選手が「敵」になる可能性も

1週間前、イングランドのラグビーを見るためにフランスに行こうとしていたのに、いつの間にやらイングランドのサッカーの試合が行われていたポーランドに偶然にも降り立っていたという皮肉な展開に、僕はもちろん衝撃を受けた。

ブロツワフにいたイングランドのファンが、そろいもそろって「イケてない」場所から来ていて、「イマイチな」国内クラブのサポーターだったことにも衝撃を受けた。ダービー・カウンティ、コベントリー・シティ、ピーターバラ、サウスエンド・ユナイテッド、レイトン・オリエント......。

僕はけっこうな数のイングランド人と話をしたが、プレミアリーグを応援している人には誰も遭遇しなかった。偶然にも僕はその日、アーセナルのキャップをかぶっていたが、誰ひとりそれに否定的反応をしなかった(肯定的反応も)。たとえばマンチェスターユナイテッドやスパーズ(トッテナム・ホットスパー)、あるいは他のアーセナルファンとすれ違ったりしたら、確実に反応があるだろう。ヤジが飛んでくるか、喝采が飛んでくるか、だ。

だから僕は、最も献身的なイングランド代表ファン(代表の試合のために海外に飛ぶようなファン)は、強豪クラブのファンではないということに気付いた。例えばマンチェスター・シティのファンなら、チャンピオンズリーグでのマンチェスター・シティの試合に金を払う可能性の方がずっと高い。それに正直に言えば、多くのプレミアリーグファンは、イングランド対ウクライナの試合を見るよりアーセナル対マンUの試合を見るほうに興味がある。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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