コラム

「ジャガイモ飢饉」のアイルランドから、人口過密のイングランドへ

2018年10月10日(水)19時00分

ジャガイモ飢饉の時代に食べ物を求めるアイルランドの人々を描いたイラスト duncan1890/iStock.

<イングランドのお隣、アイルランドは19世紀の「ジャガイモ飢饉」をきっかけに人口の激減を続け、対照的にイングランドは人口の急激な流入が続く>

僕はアイルランド系の祖先を持つイングランド人だ(僕はイギリス国籍とアイルランド共和国国籍のどちらも所有している)。その2つの母国の人口推移は、ここ数百年で全く異なる道を歩んできた。

1841年の国勢調査以来、イングランドの人口は1360万人から現在の推定5600万人に増加した。

現在のアイルランド共和国を構成している26州の人口は、ほぼ同じ期間に、650万人から推定480万人に減少した。

ざっくり言うと、イングランドの人口が4倍に増える一方で、アイルランドの人口は4分の1ほど減ったことになる。隣同士の2つの国にしては、途方もない違いだ。

これがもしも日本の立場だったら、と考えてみると、1841年の日本の人口は約3100万人と推計される。つまり、イングランドと非常に似通った割合で人口が増加している(現在の人口は4倍だ)。代わりに、アイルランドのような人口推移をたどっていたとしたら、現在の日本の人口は2300万人になっているだろう。

アイルランドは1845年に始まった、いわゆる「ジャガイモ飢饉」で大打撃を受けた。その特徴は、被害が一地域にとどまらず全土に広がったこと、そしてその後何年も続いたことだ。当時、アイルランドの何百万もの人々はほぼジャガイモだけを食べて命をつないでいる状態で、飢饉が襲った時には当てにできる資源(貯蓄や資産など)もほとんどなかった。100万人以上が命を落とし、さらに100万人が国外、主にアメリカへと移住した。

100年以上も人口流出が続いた

だから、飢饉は「自然災害」だったが、経済的・政治的状況が事態を国家規模の大惨事にしてしまった。その当時、アイルランドは世界屈指の豊かな国イギリスの一部だったが、アイルランド人はひどい貧困にあえいでいた。イギリス人貴族の多くがアイルランドの広大な土地を所有し、そこで貧しいアイルランド人が小作人として働いていた。イギリス人貴族たちはこうやって収益を得ていたが、多くはイングランドに暮らしていたし、アイルランドの所有地を訪れることさえほとんどなかった。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story