コラム

思惑入り乱れる「即決」イギリス総選挙

2017年04月21日(金)10時40分

メイ首相はEU離脱に向けて政治基盤の安定化を図りたいようだが Stefan Wermuth-REUTERS

<6月の総選挙で、保守党は期待したほど議席数を伸ばせないだろう。労働党はボロ負けして、それでもコービンが党首にとどまれば、主流派の議員が分裂して新党を結成するかもしれない>

僕がイギリスに帰国した翌年の2011年、総選挙を5年ごとに行うとの法律が定められた。この法律は、与党が5年「以内」の自党に最も有利な時期に総選挙を行う、という既存のシステムに取って代わることになった。

大体同じころ、僕は「omnicompetent(全権を有する)」という新語を知った。僕の記憶が正しいなら、あるウェブサイトでは、「議会は全権を有しており(omniconpetent)、自身が作ったルールを自ら覆すことができる」というふうに解説していた。

だから、今回「即決」されたイギリス総選挙は、法で定められているものなら何であれ絶対に確かだなどと信じ込むべきではないことを示したよい例だろう。何しろ2011年のこの法律がこれまで唯一効力を発揮したのは、2015年の総選挙の日程を決めるときだけだったのだから。

今回の総選挙前倒しの理由は十分過ぎるくらい明らかだ。まず、保守党は世論調査でこんなにも見事なリードを保っているから、今すぐ選挙をして成果を得たいとの欲求にあらがえないこと。ここまでの優勢は当然ながら、ずっと続くはずがない。

2つ目には、テリーザ・メイは総選挙を経て選ばれた首相ではなく、そのことが彼女への批判につながっていたことだ(実際、彼女は保守党内の党首選すら正式に勝利したとはいえない。対立候補が脱落したから争うことなく党首になった)。総選挙で勝利を収めれば、彼女に正当性が与えられるだろう。

そして3つ目に、メイには総選挙を行うもっともらしい口実がある。メイが進めるブレグジット(イギリスのEU離脱)の交渉プランへの後押しを得て、交渉手続きを前に進めるためだ。

【参考記事】メイ英首相が衝撃の早期解散を決断した理由──EU離脱の政局化は許さない

労働党はボロ負けで分裂?

これは「即決」の総選挙だから、僕も「即席」予想をしてみよう。

保守党は過半数を上回り議席をさらに拡大させるだろうが、彼らが期待するほどの伸びではないだろう。有権者は今のところ保守党をいちばん分別ある選択肢と見ているが、一方で保守党は傲慢と見られているし、あまり広く好かれてもいない。にもかかわらず、彼らは議席数増を有権者からの信任だとみなしてお墨付きを得たと豪語するだろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

みずほFGの今期純利益見通し10%増の7500億円

ビジネス

中国の複数行、高金利預金商品を廃止 コスト削減狙う

ワールド

インドネシア貿易黒字、4月は35.6億ドル 予想上

ビジネス

コメルツ銀、第1四半期は29%増益 通期の純金利収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story