コラム

ラグビー嫌いのイギリス人さえ目覚めさせた日本代表

2015年10月21日(水)13時10分

 次に、日本対スコットランド戦を観戦した。日本が南アフリカを破った後だったので、イングランドでもかなり期待が高まっていた試合だ。世間を覆っていた興奮は言い表せないほど。僕がスコットランドではなく日本を応援する堂々たる口実ができたのも、すごくラッキーだと思った。

 イングランド人とスコットランド人は仲が悪い。だからイングランド人の僕が日本を応援していれば、単に「アンチ・スコットランド」だからだと思われてスコットランドのファンにムカつかれる恐れがあった。ところが、はるかに強豪の南アフリカを日本が下した今となっては、日本を応援する人の数も膨れ上がっていた。

予選敗退がここまで悔しいとは

 その後、僕はロンドンで行われたアイルランドの試合を見にいった。応援したのはもちろん、アイルランド。僕の家族のルーツはアイルランドにあるからだ。アイルランドは楽勝した。

 自分でも驚きだったが、僕は友人たちにラグビー観戦は楽しかったと話していた(自分でプレーするのとは大違いだ)。イングランド戦のチケットは取ろうとしたのか、なぜイングランドの試合は見に行かないのか、と何人かに聞かれた。

 イングランド人がイングランドの試合のチケットを買おうとしないのは、おそらく変なことなのだろう。だが、僕はどうしてもイングランド代表に親近感を感じないし、イングランドのファンに仲間意識を抱けない。イングランドがウェールズに負けたときも、そう残念とも思わなかった。イングランドが決勝に進出しなかったこともそんなに気にならなかった。

 これまで、たまにテレビでラグビーを見ることはあったが、今回のワールドカップほど興奮したり緊張したりしながら見たことはなかった。日本代表のおかげだ。南アフリカ戦で日本が勝利のトライに向けて走った場面は、これまで僕が見た「ラグビーの試合の中で最もエキサイティングなシーン」だったというだけにとどまらない。僕がこれまでに見てきたあらゆるスポーツの試合の中で、最も勇敢で、最も驚くべきものだった(あの試合に匹敵するのは、サッカーでチェルシーに0対2でリードされていたブラッドフォードが、4対2で逆転勝利した試合くらいだ)。

 後半最後の20分になってスコットランドが何度もトライを決め、日本は大差で敗れた。僕があれほどがっかりしてスタジアムを後にした経験はない。結局、アイルランド対イタリア戦も、ウェールズ対オーストラリア戦も見逃したのに、日本対サモア、日本対アメリカの中継はちゃんと見ていたと気付いたのは後になってからだった。決勝トーナメントに残れず去ったチームを、ここまで残念に思ったのは初めてだ(日本は予選4試合のうち、3試合に勝利したのに!)。

 というわけで、まさか自分がこんなことを言う日が来ようとは思ってもいなかったが、僕はついにラグビーの素晴らしさを理解した。日本代表のおかげだ。ブレイブ・ブロッサムズ(勇敢な桜たち)よ、ありがとう!

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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