コラム

愛知のリコール不正騒動はまだ終わっていない

2023年07月14日(金)17時23分

河村氏の新たな「賭け」

他方、河村氏は21年の名古屋市長選で偽造問題を抱えながらも勝利し、彼が率いる地域政党「減税日本」は統一地方選で一時9議席にまで落ち込んでいた市議会の議席数を14議席まで回復させた。党勢を回復傾向に乗せたと見ることもできるだろう。

今年に入っても「元気にみんなでいっぱい飲んで、カラオケを歌って、自然免疫をきちっとつくるということは基本的な方法」と会見で語った河村氏は、新型コロナ対策などで考えが近いとされる参政党への接近が報じられている。

参政党には「反化学物質」的な思考を持つ人々が吸い寄せられるように集まっている。一見すると極端なワクチン懐疑論なのだが、彼らは「このほうが世論ウケがいい」とか「票が集まる」という戦略ではなく、心から信じてそう訴えているのだ。

リコール運動の勢いに頼って結果的に失敗した河村だが、次の賭けでもある参政党への接近が政治的な勘なのか、本物の信念なのかはまだ分からない。無論、厄介なのは後者のほうだ。

民意によって、河村氏はリコール問題を乗り越えたという「実績」を作ってしまった。社会を騒がせ続けながらも、一定の支持を調達し続けた河村氏を甘く見てはいけない。騒動はまだ終わっていないのだ。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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