コラム

「千人計画」だけを敵視する、読売新聞の世界観

2021年09月22日(水)18時00分

日本は既に重要な論文を出せる国ではない


読売新聞が在中研究者たちから最も批判を受けていたのは、その世界観にある。彼らの中では、今でも日本は科学技術大国なのだ。その認識は正しいのだろうか。

文部科学省が発表している「科学技術指標2021」によれば、2017~19年にかけて自然科学系分野で中国の論文数はアメリカを抜いてトップになった。今や科学界の二強は中国とアメリカだ。日本は既に重要な論文を出せる国ではなくなり、ランキングも後退している。

現実は、日本で研究が重要視されず、就職の口もなかった科学者たちが求人もあり、基礎科学研究の環境が充実した中国に渡っている。だとすれば、問題を抱えているのは中国で職を得た科学者ではなく、適切な投資を怠ってきた日本の科学技術政策だろう。

世界観に合ったファクトばかり抽出し、批判すべき対象を見誤ると尽くしたはずの取材は空転する。この本から学べる最大の教訓である。

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プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

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