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アングル:中国、人民元安容認は一時的か 長期化で消費リスク拡大

2024年05月10日(金)14時17分

5月10日、中国人民元の対ドル相場がじり安傾向をたどっている。写真は人民元紙幣。2022年6月撮影(2024年 ロイター/Florence Lo)

[上海 10日 ロイター] - 中国人民元の対ドル相場がじり安傾向をたどっている。外国為替市場では、輸出競争力の回復を狙った通貨当局のささやかなシグナルだとの見方が出ている一方で、アナリストらは人民元安の長期化は当局の意図でも願望でもないと分析しており、見方が分かれている。

中国人民銀行(PBOC)は毎営業日朝方、主要通貨に対する対人民元基準値(中間値)を公表する。対ドル相場は基準値近辺の水準を容認している。市場関係者の間では、基準値が人民元安容認をかすかに示すシグナルと受け止められている。

昨年11月以降、日本や韓国などの貿易競争相手の通貨は急落したものの、PBOCは基準値の水準設定を通じて人民元安に歯止めをかけてきた。ところが、今年4月中旬以降は柔軟運用に転じ、人民元はやや軟調が目立っている。頻繁に買い支えてきた国有銀行の姿も最近の市場では影を潜めている。

名目為替レートに基づけば、多少の元安は理にかなっている。人民元は今年、対ドルで約2%下落したが、主要貿易相手国に対する人民元の価値を示す指数は3%近く上昇している。この間、日本円は対ドルで9%急落し、韓国ウォンも5%下げた。

コメルツ銀行のシニア・チャイナ・エコノミスト、トミー・ウー氏は「PBOCは人民元の対ドルでの緩やかな下落を容認し続ける公算が大きい」と話す。中国の貿易相手国の通貨が対ドルで下落することに伴って人民元が通貨バスケットに対して押し上げられているためという。

今後の人民元の対ドル相場見通しを巡って、国際展開する投資銀行の数行は数カ月のうちに1ドル=7.3元まで下落すると予想している。これは小幅な下落だ。こうした予想の背景には、PBOCが貿易競争力に注意を払いながら通貨安リスクに留意しているのではないか、と大半のアナリストが嗅ぎ取っていることがある。  

足元の中国の金融市場と景気は低迷しており、大量の資金流出が起きている。それにもかかわらず人民元は相対的に強く、裾野の広い輸出産業が打撃を受けていると示す証拠はほとんどない。

2023年の輸出総額は1兆0600億元(1467億ドル)に及び、前年水準の3分の1相当が上乗せされた形だ。足元でも外国からの新規受注は増加している。これは「3大新製品」と呼ばれる太陽光発電製品や電気自動車(EV)、リチウム電池の輸出産業への寄与度が高くなったためで、従来の労働集約的な家電製品や家具、衣料品に取って代わっている。

上海を拠点とする太陽光発電のある輸出業者は、韓国や日本の製品の値下がりは打撃になっていないと話す。「市場を独占する中国ブランドがあり、日本や韓国の参入は難しい。為替相場の変動は重要な要素だが、大きな影響は依然感じていない」と語る。

中国では消費と投資の双方が低調なためデフレ圧力が働き、製造コストの低下につながっている。

また、足元の人民元相場も、インフレ調整で試算したゴールドマン・サックスによると、2008年のリーマン・ショック発生に伴う世界金融危機以降では最も安い水準にあるという。

HSBCのチーフ・アジア・エコノミスト、フレデリック・ニューマン氏は「1ドル=7元に上伸しても、2─3年という単位で見れば、競争力はあるはずだ」と指摘する。

ただ、中国が輸入する原油など国際商品価格が高止まりしているため、交易条件は不利になっている。このため人民元安が進むと、消費者に打撃を与えるリスクが高まる。公式データに基づくロイターの計算では、今月の労働節(メーデー)休暇中の1人当たり消費支出は、新型コロナウイルス感染拡大前の19年と比べて11.5%減少した。

通貨当局が人民元を下落させることは輸出マージンを多少改善する可能性があるものの「世界的な反発を招く危険性があり、既に多くの国が不満を抱いている」(ニューマン氏)という。

ロイター
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