コラム

ポストコロナにやって来る中国覇権の時代

2020年04月02日(木)15時00分

中国共産党はプロパガンダが大得意 FINE ART IMAGES-HERITAGE IMAGES/GETTY IMAGES

<第2次大戦以降、長年アメリカが果たしてきた世界のリーダーの役割──トランプ米政権がコロナ感染に無策でいる間、中国は手厚い支援で世界にアピールし、戦略的にその座を狙っている>

リーダーは「決して危機を無駄にしてはならない」と述べたのは、オバマ前米大統領の下で首席補佐官を務めたラーム・エマニュエルだ。いま、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席と彼の全体主義体制がこの精神を実践して、世界の勢力図を塗り替えようとしている。

中国政府は、強硬な措置により新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を抑え込む一方(それに成功しつつあるらしい)、世界のリーダーの座をアメリカから奪うために手を打っている。それをよそにトランプ米政権は、200万人を超すアメリカ人の命を奪うとも予測される感染症に対して有効な対策を打てずにいる。中国を口汚く罵り、国際機関や国際協力をないがしろにし、同盟国を批判するだけだ。

中国の国営メディアと当局は、新型コロナウイルス危機に対して2つのアプローチを取ってきた。1つ目は最初の2カ月間、感染症の流行を隠蔽していた事実をごまかしていたこと(中国の隠蔽によりウイルスは世界に広がり、多くの人命を奪い、社会に混乱をもたらした。おそらく、世界規模の景気後退も引き起こすだろう)。

2つ目は、この人類共通の脅威と戦う上で中国が強力で信頼できるパートナーであると印象付けること。中国の政治体制の偉大さをアピールする宣伝ポスターを見せられているかのようだ。

中国はそうした印象を形づくるために、コロナ禍に苦しむ国々に手厚い支援を提供している。これは、アメリカが長年果たしてきた役割だ。欧米諸国で患者たちが病院の廊下に寝かされて十分な治療も受けられずにいるとき、中国はアメリカを含む多くの国に、大量のマスクや人工呼吸器を送り、大勢の医師や専門家を派遣している。

トランプは州知事たちに、自力で人工呼吸器を調達しろと言い放った。この発言は、今回の危機に対する米政府の無策を浮き彫りにしている。米政府はいまだに明確な感染封じ込め策を持っていないのが現実だ。トランプは相変わらず同盟国や国際機関を軽視し、「中国ウイルス」という言葉を使って責任逃れに終始している。

対照的に、明確な戦略上の目標を追求しているのが中国だ。その目標とは、新しい国際秩序をつくり、影響力でアメリカに肩を並べ、さらにはアメリカの地位を奪うことである。中国はこの数十年、国際的なメディア戦略と外交、対外援助、そして情報機関によるプロパガンダと情報工作を通じて、ソフトパワーの強化に励んできた。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアの制裁逃れ対策強化を、米財務長官が欧州の銀行

ビジネス

中国の若年失業率、4月は14.7%に低下

ワールド

タイ新財務相、中銀との緊張緩和のチャンス 元財務相

ワールド

豪政府のガス開発戦略、業界団体が歓迎 国内供給不足
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story