コラム

たとえ菅が辞めようと、臨時国会を開かない自民党には政権を任せられない

2021年09月03日(金)22時25分
自民党総裁に選出された菅義偉

一年前に菅義偉を総裁に選び、守ってきたのは自民党だ(2020年9月14日) Kyodo/REUTERS

<自民党は安倍政権のときから国会のチェックを受けることから逃げ続け、憲法の義務である臨時国会を開くことも拒んだ。今日のコロナ感染爆発を招いた責任も問わせないまま総選挙に突入する勢いだ>

7月16日、野党4党は憲法53条に基づく臨時国会召集要求を提出した。しかし一ヶ月半たった今も、国会が開かれる気配はない。政府与党はいろいろな理由をつけて臨時国会を先延ばしにしており、そうこうしているうちに9月3日、菅首相は月末に行われる自民党総裁選への不出馬を決めた。これによって自民党は後継者選びに忙しくなり、総選挙までに臨時国会を開こうとはしないだろう。政治空白とともに、事実上の無法政治が行われている。

立憲主義に反する政権

日本国憲法では、次のように規定されている。「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」。今回、野党は後者の規定による国会召集を要求し、内閣が召集を決定しない場合は憲法違反となる。

この条文には「いつまでに」という規定がない。これを悪用して菅内閣は、臨時国会召集の引き伸ばしを正当化した。2017年には同様の理由で安倍内閣が臨時国会を先延ばしにし、9月末にやっと開かれたが、そこで冒頭解散となった。しかしながら、「いつまでに」という規定がないのは、常識的に考えればこれが直ちに実行されるはずのものだからであって、内閣・政府与党の恣意によって召集の決定が引き伸ばされるなどということは憲法の制定者は想定していなかっただろう。

ここに、自民党内閣に政権を任せられない理由がある。政治家は、単に憲法に従うだけでなく、憲法の精神に沿った政治を行わなければならない。憲法53条の臨時国会を召集させる権利は、行政府に対する立法府の重要な権利だ。条文に明文化されていないからといって召集を先延ばしにする行為は、憲法の精神に反する。憲法の精神に基づいた政治を「立憲的」という。つまり臨時国会を開かない安倍・菅政権は「非立憲的」内閣と呼びうる。そして国会召集見送りは自民党の総意でもあるのだから、菅首相の後継政権もまた「非立憲的」内閣になるのは確実なのだ。

野党が要求する臨時国会の意義

民主主義国家で、権力の集中を防ぐための仕組みが権力の分立だ。たとえば立法府が法律をつくり、行政府がそれを執行する。しかし社会が複雑化するとともに、三権のうち行政府の役割が増大することになった。それに伴い立法府の役割として、法律をつくるだけでなく、行政府をチェックする機能が重要になった。コロナ禍のような行政府の仕事が増える緊急時には特にそうなのだ。緊急的な対応が増えれば増えるほど、その対応が適切か否かをチェックする仕事も増える。間違った対応にチェックが機能しなければ、永遠に間違い続けることになる。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、一部受刑者の軍入隊を許可 人員増強で

ワールド

北東部ハリコフ州「激しい戦闘」迫る、ウクライナ軍総

ビジネス

NY連銀、新たなサプライチェーン関連指数発表へ 2

ビジネス

米CB景気先行指数、4月は0.6%低下 予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story