コラム

トランプ新政権の外交安全保障を「正しく予測」する方法

2024年02月26日(月)16時55分

ハドソン研究所は国防総省に近いネオコン傾向があるシンクタンクだ。彼らはインド太平洋(日本含)と欧州諸国の軍事連携で中国による挑戦を抑止する戦略を打ち出し、ウクライナやイスラエルに対する軍事的支援を強化することを求めている。対ロシアに関しては、イランとの分断を念頭に、コーカサスや中央アジアまで含めた外交攻勢まで提言している。この主張がそのまま反映されることはないと思うが、共和党が重視する国防総省に影響力があるシンクタンクとして当然に注目すべき存在だ。

アメリカ・ファースト・ポリシー研究所は、新興のシンクタンクで、トランプ本人に近いとされている。同シンクタンクでは、従来までの共和党保守派の外交安全保障方針である、力による平和をベースとしており、プーチンを交渉のテーブルにつけさせるために、ウクライナへの軍事支援の制限を取り払うべき、という論稿を公表している。つまり、ロシアの侵攻を止めるためには、現在の落としどころがないバイデン路線ではなく、目標を決めて軍事支援を行うべきだという主張だ。彼らが公表した対中政策のペーパーでも台湾への強力な支援が明示されている。

 
 

トランプ新政権の方向性、強硬派シンクタンクの役割

以上のように、トランプ新政権の政策立案を支えるシンクタンクに対外的に弱腰に転じる主張を持つシンクタンクはない。トランプ新大統領はこれらのシンクタンクの政策を踏まえた上で、対外的なメッセージを発する可能性が高い。その狙いは欧州諸国に独自の軍事力強化を求めることを前提とし、それらの国々と連携した世界戦略を描いていると予測される。これは日本も含めたインド太平洋地域のパートナーに対しても同様の扱いとなるだろう。

したがって、同盟関係を揺るがすような過激なトランプ発言であったとしても、それはリベラルなメディア関係者による「切り取り報道」とは全く真逆の目的の狙いがあると想定すべきだ。

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プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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