コラム

「トランプは大統領にふさわしくない」著名ジャーナリストのウッドワードが新著『怒り』で初めて書いたこと

2020年09月22日(火)11時45分

トランプがウッドワードに語った北朝鮮の最高指導者・金正恩との関係は、まるでロマンスのようだ。金は手紙の中でトランプを「Dear Excellency(親愛なる閣下)」と呼び、トランプは褒め言葉に有頂天になった。シンガポールで金に会った時の様子を「これまで私が見たこともないほど、いや、史上誰も見たことがないほどの数のカメラだった」とアカデミー賞以上に注目されたイベントだったことを強調した。そして、北朝鮮と韓国の軍事境界線で握手をしたときの写真を見せ、「彼は自分の叔父を殺して政府幹部が通りかかる階段に死体を置いたんだよ。頭を切り落として、胸の上に置いて......ナンシー・ペロシ(民主党下院議長)は『さあ、トランプを弾劾しよう』とか言っているが、そんなのタフだと思うかね? タフというのはこういうことを言うんだよ」と金が自分に何でも話してくれる特別な関係であることをウッドワードに自慢したのである。

トランプはさらに、トルコのエルドアン大統領について語っているときに「私が持っている人間関係は面白いね。相手がタフで意地悪であればあるほど私は仲良くやれるんだ。わかるかな? それがなぜなのか、いつか私に説明してくれるかな。いいかい?」と言った。ウッドワードは「(説明は)そんなに難しくないですよ、と私は思ったけれど、何も言わなかった」と書いている。トランプ自身が、そうした独裁者への憧れを抱いているからに他ならない、ということだろう。

ウッドワードは、本書の末尾に、これまでの大統領に対して一度も書かなかったことを書いた。

「すべての大統領には、国民に情報を提供し、警告し、国民を守り、真の国益と目標を明確にする大きな義務がある。危機的な状況においては特に、世界に対して真実を伝える対応をするべきだ。トランプは、それをする代わりに、自分の個人的な衝動を大統領としての統治の指針として崇めたてている。

大統領としての彼のパフォーマンスを全体的に捉えたとき、私が出せるのはひとつの結論しかない。
『トランプは、この仕事にふさわしい人物ではない(Trump is the wrong man for the job)』

『Rage』
 Bob Woodard
 Simon & Schuster Ltd

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

<関連記事:トランプ支持の強力なパワーの源は、白人を頂点とする米社会の「カースト制度」

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story