コラム

ベルリンが「ブロックチェーンの首都」になった理由

2020年12月07日(月)17時00分

イーサリウムの可能性

今日、市場には多くのブロックチェーンと暗号通貨がある。それらの1つが、分散型アプリケーションやスマート・コントラクトを構築するためのプラットフォームであるEthereum(イーサリウム)であり、その最も興味深い機能は、ブロックチェーン上でアプリケーションを開発するという展開だった。

このプロジェクトのコア開発者の多くは現在ベルリンに住んでいる。イーサリウムがシリコンバレーではなく、ベルリンで進化した理由は明らかである。結局のところ、このプロジェクトは経済システムを最適化することではなく、それを完全に再構築することなのだ。

ベルリンが牽引するブロック・チェーン

ベルリンには、ハッカー・スペースや暗号共同作業スペース、主要な業界イベント、100を超えるブロックチェーン・スタートアップが生まれている。なぜベルリンはブロックチェーンと適合するのだろうか?

ベルリンは歴史的に分散化の都市だった。それは主に、第二次世界大戦後に勝利した国々によって分割統治された政治的および経済的分断によるものだった。ベルリンという都市自体は中央集権化されず、実際に市内中心部という理解も希薄だった。代わりに、ベルリンは独自の中心と特性を持つさまざまな地区によって特徴付けられてきた。つまり、分散化を理解している都市が世界にあるとすれば、それはベルリンなのだ。

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ベルリンのブロックチェーン関連の一大イベントであるWeb 3サミット2019にビデオ出演したエドワード・スノーデン。©Web3 Summit 2019

データ保護の重要性に対するベルリンの歴史的な認識の高まりは、市内の暗号エコシステムが急速に成長しているもう1つの理由である。1970年代以前の暗号化は、主に軍事目的で使用されていた。都市が東西に分割されている間、ベルリンは世界のスパイの首都になった。東西ドイツを往来する過激なスパイ活動は、ベルリンの壁崩壊による冷戦の終結まで続いた。

こうした背景を背負ったドイツは、すでに1970年代に世界で最も厳しいデータ保護法を制定しており、2018年、EUがGDPR(一般データ保護規則)を立法化することにベルリンは大きく貢献した。データ保護は、暗号シーンで非常に深刻に受け止められている問題である。これが、ブロックチェーン企業がデータ・プライバシーに関してベルリンを高く評価している理由である。

DXの核心

世界中のプログラマー、起業家、自由な精神、先見の明がある人々は、ベルリンのプロジェクトに取り組むためにベルリンに移住している。Ethereum Foundation、Parity、Web3 Foundationなどの暗号のパイオニアたちがここに定住したのは当然のことだった。アメリカは厳しい入国規制によりチャンスの国としての評判を失いつつあるが、ベルリンは安価なコストで魅力的な生活空間を備えた多文化のメルティング・ポットだ。

ドイツ政府は現在、ブロックチェーン技術を積極的に利用するための戦略を採用している。これにより、イノベーションが促進され、投資が引き起こされる。安定性、持続可能性、公正な競争は、広範なITおよびデータ・セキュリティと同様に、ブロックチェーン技術の重要性を際立たせている。

ブロックチェーンは、従来の製造業のデジタル化(インダストリー4.0)、モノのインターネット、エネルギー・セクター、物流のインターフェース、プライバシー保護、そしてDX全般において鍵を握る技術基盤である。

プロフィール

武邑光裕

メディア美学者、「武邑塾」塾長。Center for the Study of Digital Lifeフェロー。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学、東京大学大学院、札幌市立大学で教授職を歴任。インターネットの黎明期から現代のソーシャルメディア、AIにいたるまで、デジタル社会環境を研究。2013年より武邑塾を主宰。著書『記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で、第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。このほか『さよならインターネット GDPRはネットとデータをどう変えるのか』(ダイヤモンド社)、『ベルリン・都市・未来』(太田出版)などがある。新著は『プライバシー・パラドックス データ監視社会と「わたし」の再発明』(黒鳥社)。現在ベルリン在住。

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