最新記事
中東

世界がまだ気付いていない「重大リスク」...イスラエルとヒズボラの「戦争が迫っている」と言える理由

The Inevitable War

2024年3月6日(水)11時08分
スティーブン・クック(米外交問題評議会上級研究員)
レバノンのヒズボラ

ヒズボラのメンバーと支持者(2015年8月) Ali Hashisho-Reuters

<レバノンを拠点とする武装組織ヒズボラとイスラエルの間で、このままでは6~8カ月のうちに戦争が勃発。その要因を徹底分析>

レバノンのイスラム教過激派組織ヒズボラとイスラエルの間で、今後6~8カ月のうちに戦争が勃発する可能性が高い。

その根拠をできる限り明確にしておこう。この点に関する今までの分析はほぼ一様に、ヒズボラとイスラエルは共に戦争を望んでいないと結論付けてきたからだ。

これらの分析は、現状を根拠に未来を予測している。だが誰もが知るとおり、中東情勢は極めて流動的に変化する。アナリストや関係国の政府関係者は自らの仮定を再検討し、予測をアップデートすべきだ。

これまでヒズボラとイスラエルは小競り合いを続けてきたが、全面戦争には至っていない。一見して自制しているように見えるものの、両者が戦争を望んでいないというわけではない。むしろさまざまな要因のために、瀬戸際で開戦を踏みとどまっているのが実情だ。

歯止めになっていると考えられる要因は、いくつもある。例えばイラン指導層の戦略的な計算、中東戦争の回避を目指すアメリカの思惑、パレスチナ自治区ガザでの戦闘の経過、そしてアメリカの国内政治。だが、これらの要因が今後も紛争勃発を防ぐと当てにしてはいけない。事実、こうした制約は失われつつある。

ヒズボラが戦争を望んでいないという主張の前提には、イランの意図に関するさらなる主張がある。イランが支援するヒズボラとイスラエルとの衝突を、イラン自身が避けたがっているというものだ。

この2つの主張を支える論理に、もっともな点はある。ヒズボラはイラン革命防衛隊の遠征部隊として活動し、シリアのアサド政権による反体制派の弾圧や、イランが後押しするイラクの民兵組織への協力、イエメンのシーア派武装勢力フーシ派への訓練などで重要な役割を果たしてきた。

しかし、ヒズボラには革命防衛隊の一部門である以前に、イランの抑止力として機能するという役割があった。その点は今も変わらない。

ヒズボラと、同組織が保有しているとされる10万発以上のロケット弾は、イランの報復能力を支えている。イスラエルやアメリカがイランの核開発の拠点を攻撃すれば、ヒズボラの兵器がイスラエルの人口密集地に撃ち込まれ、壊滅的な被害を与えるだろう。

イランの指導層は打倒イスラエルという目標より、体制の存続に力を入れている。ヒズボラへの支援で得た抑止力を失ってまでイスラエルを攻撃しようとは考えていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

香港の銀行、不動産不況による信用リスクに直面=ムー

ワールド

中国の複数都市が公共料金値上げ、デフレ圧力緩和も家

ワールド

インドネシア貿易黒字、4月は35.6億ドル 予想上

ワールド

韓国大統領、ウクライナ支援継続表明 平和サミット出
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中