最新記事
台湾

敗者なき結果は民衆の「迷い」か「知恵」か、頼清徳(ライ・チントー)政権誕生の台湾新時代を読み解く

ROAD TO A NEW TAIWAN

2024年1月19日(金)17時17分
野嶋 剛(ジャーナリスト、大東文化大学教授)
課題山積の台湾新時代を読み解く

ANNABELLE CHIH/GETTY IMAGES

<総統選を制した民進党だが頼の得票率は約4割にとどまり、立法委員(国会議員)選挙では大幅減となった。「敗者なき」選挙結果は民衆の迷いか知恵か、それとも...>

4年に1度、台湾人は「国」の未来を懸けて一票を投じる。その盛り上がりはアジア、いや、世界有数かもしれない。

権威主義体制から民主体制への転換を成功させ、その熱を失わずに総統選挙にエネルギーを投じる様は「民主主義の灯台」とも呼ばれる。

だが、台湾の人々が選挙をこれだけ重視するのは、台湾の「国づくり」がまだ途上にあることを示している。

日本の国境の南に位置し、心の休まる間もなく中国からの圧力にさらされながら「台湾は台湾」としての生き残りを模索する人々は、いかなる「新時代の台湾」を選択するのだろうか。

1月13日朝、台南市の役票所に姿を見せた頼清徳(ライ・チントー)副総統。与党・民主進歩党(民進党)の候補となることが事実上確定したのは、統一地方選敗北の痛手からまだ立ち直っていない昨年1月だった。

それから1年。民進党の政権継続の使命を受け、米大統領選挙並みの長く過酷な選挙キャンペーンを終えた政治家の表情には、ようやく重い荷を降ろした安堵と結果への不安がにじんでいた。

今回、台湾の登録有権者数はおよそ1950万人。投票率は7割前後だった。前回2020年の投票率74.9%に比べると決して高くない。それは、頼と民進党の苦戦の裏返しでもあった。

民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統は20年の総統選挙で記録的圧勝を収めた。そのときに勇んで民進党に投じた若者は、今回は野党に票を入れたり、投票自体に行かなかったりしたとみられる。

その理由は複雑だ。蔡英文8年間の政治をどう評価するかは、台湾の人々も、立場や年齢層、出身地によってさまざまだ。

新型コロナ対策での見事な振る舞い。半導体産業の振興。アメリカや日本など西側社会との関係強化。これらを高く評価する声も多い。

一方、若者たちは蔡が成し遂げた「国際社会で尊敬される台湾」以上に、8年を与えても「就職難・低賃金・地価高騰」を解決できなかったことを恨んでいる。

選挙戦の中で、中国国民党(国民党)と台湾民衆党(民衆党)の両野党が唱えた「下架民進党(民進党を引きずり降ろせ)」というスローガンが広く浸透した。

ただ、国民党候補の侯友宜(ホウ・ヨウイー)新北市長、民衆党候補の柯文哲(コー・ウェンチョー)前台北市長の追い上げも及ばなかった。

21世紀になって、台湾では同じ政党が3期続けて総統ポストを保持した前例はない。その意味では紛れもなく民進党の勝利である。

しかし、頼の得票率は約4割にとどまり、「逃げ切り」や「辛勝」と総括するしかない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:EU市民の生活水準低下、議会選で極右伸長

ワールド

アングル:ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が

ビジネス

「クオンツの帝王」ジェームズ・シモンズ氏が死去、8

ワールド

イスラエル、米製兵器「国際法に反する状況で使用」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 7

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 10

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中