最新記事

日本社会

若者の都市部への集中は、ますます加速している

2023年8月2日(水)11時20分
舞田敏彦(教育社会学者)

上記は1976~80年生まれ世代の例だが、より最近の世代ではどうか。ここ数年、「地方創生」というフレーズのもと、若者の定住やUターンを促す取り組みが盛んになっている。果たして、その効果は出ているか。最新の『国勢調査』は2020年実施で、この年の25~29歳は、15年前の2005年では10~14歳だったことになる。前者を後者で割れば、当該の世代(1991~95年生まれ)の残留率を出せる。

2つの世代の残留率を都道府県別に計算し、数値が低い県に色を付けた地図にすると<図1>のようになる。

data230802-chart02.png

色付きの県は数値が0.8未満、すなわち10代前半から20代後半にかけての減少率が20%を超える県で、濃い色は30%以上減を意味する。先ほどの<表1>と同じだ。

左右の地図を比べると、色が付いた県が増えている。1976~90年生まれでは、色付きの県は16だったが、1991~95年生まれでは24だ。濃い色の県は2から10に増え、後者の世代では宮城県を除く東北の全てがこの色で染まってしまっている。

これに対して、東京都の数値は1.53から1.95へと上がっている。東京では青年期にかけて人口が2倍近くに膨れる一方で、3割以上も減る県の数が増えている。総じて言えば、最近の世代ほど地元に帰らなくなっている。大都市圏が地方の若年人口を吸い上げる傾向が強まっている。何とも残念な事実だ。

近年の変化といえば、ITのような新興産業が台頭していることだが、この種の産業は東京への集中度が高い。また地方から都市部の大学に進学する者が増えているものの、高学歴者の雇用の受け皿が地方には乏しい。その中には奨学金を借りている人も多いが、多額の奨学金を借りた人は、稼げない地元に帰るのをためらう、という話も聞く。データを出すまでもなく、東京と地方の収入格差は大きい。

テクノロジーの進歩により、働き方に地理的な制約がなくなる可能性はある。東京の会社に籍を置きつつ、居住地は地方という人も増えてくるだろう。こうした動向を見据えつつ、国や自治体が為すべきは、若者の生活の地域格差を是正することだ。移住や奨学金返済の支援金といった金銭的なものだけでなく、空き家などを活用した「住」の支援も必要だろう。

<資料:総務省『国勢調査』

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中