最新記事

東南アジア

ミャンマー軍政、スー・チー率いる民主派政党を解党 総選挙は軍政支持派一色に

2023年3月29日(水)18時45分
大塚智彦
アウンサン・スーチー

アウン・サン・スー・チーが率いる民主派政党が解散させられ、ミャンマー情勢は混迷が続く Athit Perawongmetha - REUTERS

<クーデターから2年、親軍派の政党だけが残る国に......>

ミン・アウン・フライン国軍司令官がトップを務めるミャンマーの軍事政権は3月28日、民主政府指導者だったアウン・サン・スー・チー氏が率いていた民主政党「「国民民主連盟(NLD)」を解党処分とすることを決めた。

これにより軍政が予定している総選挙にNLDは参加資格を失うことになり、「公正で民主的総選挙」は実質的に不可能となり、軍政支持政党だけによる不公平な一方的選挙となることが確定した。

そもそも軍政は2021年2月のクーデター直後からスー・チー氏を数々のいわれなき容疑で拘束するとともにNLD所属議員や関係者の摘発といった弾圧を続けてきており、28日の「解党処分」以前から総選挙への参加は実質的に不可能な状況になっていた。

それをわざわざ2023年1月に軍政が一方的に定めた新選挙法で政党としての届け出に期限を設けて「3月28日までの期間中にNLDから届け出がなかった」として政党要件を失い解党処分としたことは、軍政にとっては「既定路線」であくまで「公正で自由な選挙」を演出するためのプロセスに過ぎなかったといえる。

NLD関係者は「軍政の思惑には乗らない」として政党としての届け出を拒否、あくまで反軍闘争を継続する方針を貫いた形となった。

NLDなど40政党を解党

ミャンマーの軍政寄りの国営放送は28日、NLDを含めた40の政党が期限までの届け出をしなかったり、親軍という政党要件を満たさなかったとして29日を以って解党処分を受けることになったと伝えた。

その一方で総選挙には親軍派の「連邦団結発展党(USDP)」など、国政・地方政治合わせて63政党が届け出を済ませて参加することになったとことを軍政は明らかにした。

2023年8月に予定されていた総選挙は武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や国境周辺の少数民族武装勢力との戦闘激化による国内治安の著しい不安定化により軍政が2月に非常事態宣言を延期したことで実施時期が無期限延長となっており、いつ総選挙が実施されるかは不確定となっている。

軍政は全国で有権者名簿の策定・登録など総選挙の準備を進め、早期の選挙実施を目指しているが、作業に当たる地方行政機関や担当者がPDFから襲撃を受けるなどして順調に進んでいないのが実状という。

スー・チー氏が率いていたNLDは軍によるクーデターで大半の党員や関係者が逮捕されたこともあり、逮捕を免れた幹部や党員は国外に避難するか地下に潜伏して活動を続けている状態。「期限内に政党としての届け出をするように」と軍政が訴えたところで届け出に赴けば逮捕される可能性が高かったという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

4月末国内公募投信残高は前月比0.1%減の226.

ビジネス

ゆうちょ銀、3月末の国債保有比率は18.9%

ビジネス

みずほFGの今期純利益見通し10%増の7500億円

ビジネス

中国の複数行、高金利預金商品を廃止 コスト削減狙う
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中