最新記事

日本政治

維新を躍進させた、謎の「ボリュームゾーン」の正体

A Windfall Victory

2022年7月13日(水)15時43分
石戸 諭(ノンフィクションライター)
吉村洋文

吉村は歯切れのいい言葉で通行人の足を止める(6月28日、京都府)Photographs by Soichiro Koriyama for Newsweek Japan

<「自民党が大阪で何ができないのか」を突き詰め、足掛け10年で「大阪の利益代表」から全国区に躍り出た、日本維新の会。さらなる飛躍には「中道」をさらに取り込む政策と組織運営が必要>

昨年の衆院選に続き、参院選でも日本維新の会(維新)が議席数を大きく増やしそうだ──。衝撃的な安倍晋三元首相の銃撃事件が伝えられるまで、参院選の注目の1つは、維新だった(編集部注:選挙結果で維新は改選議席を12議席に倍増させ、参院で計21議席に)。

伸長を予測するニュースが流れるたびに、人々の反応は大きく3つに分かれていた。

第1に伸長を歓迎する熱烈な支持層、第2に熱烈な反対層、第3に可視化されにくいが確実に存在している「積極的に支持もしないが、だからといって拒否もしていない」層である。

大阪以外のエリアから維新という政党は謎めいて見える。時に自民党に接近し、核兵器について自民以上にタカ派的な発言が飛び出したかと思えば、「改革」を旗印に掲げ、自民も立憲民主党も批判する。

維新のキャッチフレーズ「身を切る改革」に賛同する人々の存在は分かりやすい。大阪都構想、維新が推し進めるカジノの大阪誘致などもってのほかという批判に共鳴する人々もSNSで多数観察することができる。

これら支持、不支持層は可視化されやすく、主張を並べたとしても、それは維新に対する感情レベルのぶつかり合いを記述するにすぎない。問いはこう変える必要がある。

すなわち、なぜ維新は伸びることになったのか? 鍵を握っているのは、第3の不可視なボリュームゾーンの存在である。

維新の選挙戦には2つの顔がある。「府政与党」の大阪と、第三極の野党として追う立場にある他の都市部の違いだ。前者を象徴していたのは、選挙戦1日目、大阪を代表する繁華街ミナミの一角、南海難波駅前での選挙戦第一声であったように思える。

6月22日午前10時半過ぎ──。維新代表で大阪市長、松井一郎は、盟友の元大阪府議にして「大阪維新の会」創立メンバー浅田均と、もう1人の候補者高木佳保里を応援するべく選挙カーの上に立った。その姿に維新の強みと弱みが交錯する。

浅田は京都大学出身で、スタンフォード大学への留学経験もある維新屈指の理論派として知られる。大阪都構想や、中央の意思決定に左右されないローカルパーティー(地域政党)を構想したのも浅田だ。

その半面、分かりやすく人々に語りかけ、仲間をまとめる能力には欠けるというのが周囲の見方だ。彼らがなぜ「大阪維新の会」結成に至ったのか。

話は2010年にさかのぼる。当時、自民党に所属していた松井と浅田は、大阪府議団の「反主流派」だった。04年には自民が推薦した現職知事、太田房江に公然と反旗を翻し、民主党を離党したばかりの江本孟紀の支援に回った。

背景にあったのは、同じ自民推薦の政治家であっても府と市で全く別の公約を掲げることがあるという大阪の事情だった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

MUFG、今期純利益1兆5000億円を計画 市場予

ビジネス

焦点:マスク氏のスペースX、納入業者に支払い遅延 

ビジネス

ペイペイのシステム障害、サイバー攻撃の有無含め調査

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中