かつて日本の「敗戦」を決定づけた要衝・ガダルカナルで今、中国がやっていること
A GAME-CHANGING DEAL
こうした状況で中国との協定が明るみに出たため、ソガバレ退陣を求める声は一層高まった。これを抑え込むため政権側はこのところそれらに執拗に厳しい警告を発している。
この島国の民主主義体制が脆弱なことを考えると(しかも来年には国政選挙が控えている)、数々の問題を抱えている現状は非常に危うく、くすぶり続ける紛争の火種がいつ燃え上がってもおかしくない。
今のソロモン諸島の状況では、米中の代理戦争のような紛争が火を噴き、地域全体が火の粉をかぶるシナリオを容易に想定できる。ソガバレは認めないが、中国と協定を結べばホニアラをはじめ全土で治安が一層悪化するのは目に見えている。
第2次大戦で日米も戦ったガダルカナル島
それ以上に気掛かりなのは、この協定が地域全体、さらにはインド太平洋全域の安全保障に与える影響だ。第2次大戦中の1942年8月に始まった「ガダルカナル島の戦い」から今年で80周年だ。この激戦では日米双方の軍隊が大打撃を受けた上、ソロモン諸島の多くの住民も命を失った。
この悲劇が浮き彫りにするのはソロモン諸島の戦略的な重要性だ。それは今も変わらない。ソロモン諸島を自国の「裏庭」とみるオーストラリアにとってはなおさらだ。
ソロモン諸島はまた、近隣のパプアニューギニア、そしてすぐ北に位置し、パプアニューギニアから独立しようとしているブーゲンビル自治州、さらにはフィジーとニュージーランドにとっても戦略的に非常に重要な位置にある。
中国とソロモン諸島が安全保障協定を結ぶ動きが明るみに出た直後の3月29日、ニュージーランドはフィジーと「パートナーシップ協定」を結んだ。それに先立ち3月半ばにはオーストラリアもフィジーとの防衛協力の取り決めを大幅に更新している。
ソロモン諸島と中国の協定で最も問題になっているのは、この協定に基づいて中国がソロモン諸島に軍事施設を建設するかどうかだ。ソガバレとその周辺は、中国が南西太平洋への覇権拡大を目指して軍事基地を建設する可能性を真っ向から否定している。
ソロモン諸島の政治学者であるタルシシウス・カブタウラカは「中国がソロモン諸島に海軍基地を建設することは考えにくい」と述べ、その理由として「外国に基地を設けるのは中国のやり方ではない」ことを挙げている。約80カ国に750の軍事基地を持つアメリカと違い、中国は「ジブチに1カ所基地があるだけ」だというのだ。