最新記事

ウクライナ戦争

2014年には良かったロシア軍の情報収集・通信が今回ひどい理由

2022年4月22日(金)16時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ロシア軍の弱い通信体制

このように大規模な作戦なら、ロシアは空からの攻撃も組み合わせないと、ウクライナ軍の陣容を崩せない。

なのに、戦争が始まって何週間たっても、ロシアの戦闘機、爆撃機、ヘリコプター、ドローンが空から大量に押し寄せたという話は聞かない。ウクライナ軍に撃墜されるのを怖がっているのだろうか?

さらにはロシア軍の通信体制が後れていて、どういう軍がどこにいて、何をやっているかわからなくなっているという説もある。これでは、作戦のイロハができていない。

通信はロシア軍のアキレス腱。2008年8月、ジョージアのサカシヴィリ大統領はNATO〔北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization)は欧州および北米諸国による軍事同盟。第二次世界大戦後、ソ連を中心とした共産圏の脅威に対抗するために発足した北大西洋条約機構が前身〕の支援を当てにして、分離独立をはかる南オセチアを武力制圧しようとし、それに対して、ロシア軍が国境のトンネルを通ってジョージアに攻め込む、という事件があった。

ロシア軍はジョージア軍を圧倒したのだが、本国との間、そして司令官同士の連絡ができず、市販の携帯電話で連絡を取り合ったり、誤って自軍の軍用機を撃墜したりした。

これに懲りて、2010年代、ロシアは軍を〝近代化〞する。5兆円ほど使って、軍需産業の設備を更新、兵器の70%以上を〝近代化〞した(とはいえ〝近代化〞の基準は示されていない)。そして編制も小型で小回りのきくものにしたのだ。

それでも今回、通信は昔ながらの問題を露呈したようだ。2014年、ロシアが武力でウクライナからクリミア半島を奪ったこと(クリミア併合)への制裁として、西側諸国が先端技術をロシアには出さないようにしていることも響いただろう。必要な半導体=マイクロチップを自分で作れず、輸入もできないので、ロシアは今や宇宙を使ったGPSの体制も維持できなくなっている。

それに昔から、ロシアは、軍事予算が横領されることで有名なのだ。

通信というよりは、作戦のずさんさなのだろうが、既に述べたように開戦早々、キエフ近郊に飛んできたロシア軍ヘリコプターは、帰途、撃墜された。その前に地上に降ろされた空挺部隊も、来るはずだった援軍がいつまでたっても来ない中、殲滅(せんめつ)されてしまったという。

これでは、1812年、60万の陸軍でロシアに怒濤の侵入をしたあげく、兵糧不足と寒さに苦しみ、それを5000人に減らして逃げ帰ったナポレオンの二の舞になりかねない。

いい気になって攻め込んだあげく、この十年ほどカネをかけて整備してきた欧州正面軍をウクライナ領で失ってしまったら、プーチンはどういう立場に置かれるだろう。ナポレオンは、パリに逃げ帰ると、配下の将軍たちに退位を迫られ、エルバ島に流されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中