最新記事

外交

韓国「尹錫悦」新大統領、「日米との関係強化」「脱中国」路線の危うさ

Balancing China and the US

2022年3月31日(木)11時18分
ニクラス・スワンストローム(スウェーデン安全保障・開発政策研究所所長)
尹錫悦新大統領

親米反中路線を掲げる尹だが有言実行には経済的事情が立ちはだかる KIM HONG-JIーPOOLーREUTERS

<5月に第20代大統領に就任する尹錫悦は、民主主義陣営との協調と中国依存からの脱却を目指すが、経済成長を実現しながら有言実行する余力はあるのか>

親米反中路線を掲げ、3月9日の韓国大統領選を制して次期大統領の座を射止めた保守系の最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)前検事総長。しかし尹の外交政策は、言うは易く行うは難し。韓国にとって中国離れは容易ではないだろう。

大統領選で、尹と与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道知事との差はわずかに0.73ポイントと大接戦ではあったが、韓国において選挙で最も重視されるのは常に国内問題。たとえ国際問題が何らかの影響を及ぼしたとしても国内問題最優先に変わりはなく、それは今回の大統領選とて同じだ。

一方で、中国やアメリカとの関係は将来的には韓国の政治と経済の多くを決定付けるものでもある。つまり、新大統領が対中・対米関係をどう変えるつもりかを理解することは極めて重要になってくる。

尹はこれまで、大統領になった暁には民主主義国、特にアメリカとの協調関係を促進し、中国に代表されるような独裁政治や反自由主義的な秩序の出現に立ち向かうと明言してきた。頼もしい姿勢ではあるが、中国が韓国の輸出の27%を占める最大の貿易相手国であること、また持続的な経済成長による国内状況の安定が条件であることを考えれば、有言実行は簡単ではない。

ロシアのウクライナ侵攻はエネルギー供給へのマイナス影響と世界的な食糧価格高騰を引き起こしており、国内の家計を直撃すると同時に経済成長の足かせとなっている。これにより、尹新政権が政策を実現する余地はさらに狭められることになるだろう。

韓米協調に本腰を入れる見通し

尹の当選は、米韓関係と自由主義陣営にとって確かに良いニュースではある。尹はさまざまな領域でアメリカとの関係を強化する意向を示しており、それは軍事同盟や二国間貿易にとどまらず、米バイデン政権が中国を孤立させる目的で提唱している「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」と民主主義陣営への支持にまで及んでいる。

新政権がアメリカとの同盟を犠牲にしてまで中国に取り入ったり、同盟関係にただ乗りしたりすることは考えにくい。むしろ新政権は韓米協調に本腰を入れ、軍事力を強化し、インド太平洋のような国際的領域にさらに関与していくとみられている。

尹は、現・文在寅(ムン・ジェイン)政権が北朝鮮と対話を引き出すために小規模化してきた韓米軍事演習を正常化する用意もあるようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&Pとダウ小幅続伸、米利下げ期待で

ビジネス

再送NY外為市場=ドル上昇、FRB当局者発言を注視

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送一部停止か ハマスとの戦

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中