最新記事

臓器移植

世界初のブタ心臓移植を受けた男性が死亡

2022年3月15日(火)18時10分
松岡由希子

術後数週間、移植された心臓は、拒絶反応の兆候なく順調にはたらいたが...... Inside Edition-YouTube

<世界で初めて遺伝子改変したブタの心臓を移植された患者が死亡した......>

2022年1月に世界で初めて遺伝子改変したブタの心臓を移植された患者が3月8日に死亡した。
米メリーランド在住の57歳男性デイビッド・ベネットさんは2021年10月、命にかかわる不整脈でメリーランド大学医療センター(UMMC)に入院し、ECMO(体外式膜型人工肺)を装着した状態で寝たきりとなった。

彼は従来の心臓移植に不適格と判断され、不整脈により人工心臓ポンプも使えず、ブタの心臓移植が唯一の手段であった。そこで、アメリカ食品医薬品局(FDA)からの緊急使用許可を得て、1月7日、移植手術が行われた。

【参考記事】
ブタの心臓を受けた男に傷害の前科──「もっとふさわしい人にあげて欲しかった」と、被害者の遺族は言う

術後数週間、移植された心臓は、拒絶反応の兆候なく順調にはたらいた。ベネットさんは家族との時間を過ごし、体力を回復させる理学療法も受けていた。2月にはNFLの優勝決定戦「スーパーボウル」を理学療法士と一緒に観戦し、「愛犬のラッキーのいる自宅へ帰りたい」とよく話していた。

死因はまだ特定されていない......

しかしながら、数日前から容体が悪化。緩和ケアを受けながら最後の数時間には家族とも会話できたという。執刀医のバートリー・グリフィス教授は「最後まで戦った勇敢で気高い患者であることを彼は示した」と哀悼の意を表した。なお、死因はまだ特定されていない。

ヒト以外の動物の体を用いて移植や再生を行う「異種移植」は、長年、研究がすすめられてきた。とりわけ、ブタは、ヒトと臓器の大きさが似ており、成長が早く、多産なため、ドナー候補として注目されている。

今回の心臓移植では、米再生医療企業レヴァイヴィコアが遺伝子改変ブタを提供した。この遺伝子改変ブタは、抗体関連型拒絶反応(AMR)をもたらす3つの遺伝子が取り除かれ、ブタの心臓組織の過剰な成長を防ぐために別の遺伝子1つも取り除かれている。また、免疫受容にかかわるヒトの遺伝子6つが挿入された。

ブタ心臓移植「臓器不足の解消に近づく第一歩となる」

米国では臓器移植待機リストに10万6131人もの患者が登録されている。2021年には4万件以上の移植手術が行われたが、臓器提供を待ちながら年間6000人以上が死亡している。

グリフィス教授は、手術直後、世界初のブタ心臓移植について「臓器不足の解消に近づく第一歩となる」と期待を示していた。

メリーランド大学医学部のモハメド・モヒューディン教授は「異種移植の分野に膨大な知見をもたらす歴史的な役割を果たしたベネット氏に感謝したい」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中