最新記事

中国経済

北京冬季五輪は習近平式「強権経済」崩壊の始まり

China’s Economy Is Heading Toward Stagnation, Not Collapse

2022年2月3日(木)18時40分
ダイアナ・チョイレーバ(英調査会社エノドエコニミクスの主任エコノミスト)

習は漢民族の再興を意味する「中国の夢」の実現を誓い、実利主義と成長ではなく、国家安全保障とイデオロギーを重視する姿勢を取った。さらに昨年、大きな転換点となる「共同富裕」のスローガンを提唱。所得格差を是正し、中間層を増やし、中小企業の技術開発を支援する、1950年代の毛沢東主義のアップデート版とも言うべき構想を経済政策の中核に据えた。

所得と資産の格差是正を目指すのは結構なことだが、習のやり方で格差を解消しようとすれば、過去40年間中国の開発モデルを支えてきた最も重要な2つのファクターを損なう危険性がある。その2つとは、鄧小平が重視した民間活力と、「失敗を恐れずやってみる」大胆な実験精神だ。

アリババの創業者・馬雲(ジャック・マー)をはじめ、中国の起業家たちが以前から警戒していたように、習は国家の利益に資する限り民間部門の存在を容認するが、大企業でさえその条件に不適合とみなされる可能性が常にある。実際、習はこの1年、共産党の権力独占を脅かす恐れがあると見て、大企業への締め付けを強化してきた。

習がイデオロギー的に目指すのは、国有企業だけでなく、戦略上重要な民間企業にも共産党が強い権限を持ち、共産党の要求を経営上の判断に優先させることだ。中国では国家が民間にインセンティブを与えて、イノベーションや起業を奨励してきたが、習のやり方では民間の創意や活力をしぼませることになる。

質素倹約も富の分配もジャマ

共同富裕の中核には、都市部の雇用の80%を担う中小企業を支援し、勤勉とイノベーションを通じて豊かさを実現する構想が据えられている。共同富裕は名目的には民間部門の底上げを目指しているが、実質的には大企業への統制を強め、二級市民扱いされてきた中小企業にテコ入れする政策にほかならない。

習は究極的には、ドイツ経済を支える「ミッテルシュタント(中小企業)」のように、イノベーションに注力し、技術的に高度な高付加価値製品を製造し、高賃金の雇用を創出する中小企業群を育成したいと考えているのかもしれない。しかし質素倹約と富の再配分を説きつつ、それを実現するのは無理な注文だ。

就任当初から、習は贅沢な暮らしぶりや無駄遣いを厳しく批判。2012年に腐敗取り締まりの一環として導入された「8項目規定」と呼ばれる倹約令で処分された共産党員は、100万人近くにのぼる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

AUKUSと日本の協力求める法案、米上院で超党派議

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、S&Pは横ばい 長期金利

ビジネス

エアビー、第1四半期は増収増益 見通し期待外れで株

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、金利見通しを巡り 円は3日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中