最新記事

オリンピック

「東京五輪の失敗を今こそ思い出せ!」 2030札幌五輪を阻止するために今やるべきこと

2022年2月19日(土)18時45分
平尾 剛(神戸親和女子大教授) *PRESIDENT Onlineからの転載
東京五輪メイン会場となった新国立競技場

開催に反対する世論が8割を超えるなかで強行された東京五輪。「終わりよければすべてよし」と言っていいのか…… USA TODAY USPW - REUTERS


札幌市が招致を目指す2030年冬季五輪について、IOCが年内にも開催内定とする可能性があると、今年1月に共同通信などが報じた。神戸親和女子大学の平尾剛教授は「ひとたび五輪が内定すると"どうせやるなら派"と呼ばれる人たちが開催を後押しする。8年後の五輪を阻止するには今からでも決して早すぎない」という――。

開催反対が8割超だったのに強行された東京五輪

年明け早々、2030年冬季五輪を札幌に招致する動きがあると共同通信が報じた。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と日本側が水面下で協議しており、開催地を一本化する時期が今年の夏ごろから冬にかけてという見込みから、年内にも開催が内定するという。

またも日本でオリンピックが開催されるかもしれない。風雲急を告げるこのニュースに、私はとたんに気鬱(きうつ)になった。

新型コロナウイルスのさらなる感染拡大を憂慮し、開催に反対する世論が8割を超えるなかで強行された昨年の東京五輪を、まさか忘れたわけではあるまい。医療従事者に多大な負担をかけ、必要な医療が受けられず自宅で療養する人たちが溢れる「医療崩壊」の一因となった事実を、私は忘れていない。予測される困難に見向きもせず頑として開催へと突き進むその姿勢から、オリンピックそのものの構造的な問題が浮き彫りになった。そうして明るみに出た数々の嘘やごまかしはまだ記憶に新しい。

不祥事や経費膨れ上がりが度々問題となった

IOC総会での安倍晋三首相(当時)による「アンダーコントロール」発言に始まり、票集めとされる約2億円の賄賂疑惑。7月の東京は温暖という虚偽報告に加え、エンブレムの盗作問題や、新国立競技場周辺住民の強制立ち退きもあった。

組織委員会会長が女性蔑視発言で辞任し、開会式の責任者となった元電通のクリエーターも女性蔑視の言動が明るみに出て辞任した。閉会後には13万食以上の弁当および未使用の医療備品の廃棄も明るみになった。

「コンパクト五輪」「アスリートファースト」「復興五輪」というスローガンも、内実が空虚な単なるプロパガンダにすぎなかった。

2021年12月現在、組織委員会が発表した経費総額の見通しは1兆4530億円。これに、会計検査院が発表している2018年度までの五輪関連支出約1兆600億円などを足し合わせると、総額は2兆5000億円を超える。これは、招致段階で示された約7400億円という当初の見積もりをはるかに上回る、夏季大会史上最高額となった。コンパクトとはほど遠く、もはや「蕩尽五輪」である。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、1万件減の22.2万件 労働市

ビジネス

「ECB利下げ開始確実」とポルトガル中銀総裁、6月

ビジネス

ECBは利下げ急がず、6月以降は慎重に=ラトビア中

ビジネス

英中銀、利下げ待つべき 物価圧力の緩和確認まで=グ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中