最新記事

人体

人体に新たな部位が発見される アゴの筋肉の奥に、未知の第3層

2022年1月12日(水)17時30分
青葉やまと

筋肉の模型も変更? tinydevil -iStock

<これまで知られていた筋肉の層のさらに深部に、顎の開閉を安定させる第3層が隠されていた>

人体は私たちにとって最も身近でありながら、謎の多い存在だ。過去数世紀にわたってその構造は研究されてきたが、ここにきて新たな部位が発見された。その部位とは、ものを噛むときに活躍する顎の筋肉「咬筋(こうきん)」の一種だ。咬筋には既知の2層の筋肉があるが、さらにそれらの奥に別の筋肉の層が隠れていたことが判明した。

研究を行ったのは、スイス・バーゼル大学のジルヴィア・メゼイ博士率いるチームだ。メゼイ博士らはホルマリン漬けの人体サンプルと新たに献体された遺体を対象に、解剖およびCTスキャンによって咬筋の構造を分析した。結果、計28体のサンプルすべてにおいて一貫して、第3の層が確認されたという。さらなる検証のために生きた人間のMRI画像を撮影したところ、こちらも同じ構造があることが判明した。

Low-Res_Illustration_Masseter_neu.jpg

CREDIT: JENS. C. TÜRP, UNIVERSITY OF BASEL / UZB


咬筋は、口の開閉と咀嚼に関わる筋肉だ。食べ物を噛むときには咀嚼(そしゃく)筋と呼ばれる一連の筋肉が働くが、そのひとつに、上顎と下顎をつなぐ咬筋がある。この咬筋が収縮することで下顎が引き上げられ、口を閉じることができるしくみだ。

咬筋は動きがわかりやすい筋肉であるため、もし指を口に入れ、頬の内側に沿わせた状態で口を開け閉めしたならば、かなりはっきりとした咬筋の動作を感じることができるだろう。

【参考記事】
ヒトの器官で最大の器官が新たに発見される

既知の2層にはない機能

これまで咬筋は多くの解剖学のテキストにおいて、顔の表面近くを走る咬筋浅部と、それにやや角度をつける形で口内に近い位置を走る咬筋深部の、計2層の筋肉からなると説明されている。しかし、研究によって新たに確認された第3の層は、既知の2層よりもさらに深い場所に存在する。

チームは第3層の位置や筋繊維の方向などから、既知の2層とは明らかに構造的・機能的に独立していると考えている。第3層は下顎の筋突起と呼ばれる部位につながっており、他の層と同様、下顎を上顎に引き寄せて咀嚼の機能を提供する。さらにこの層は、下顎を後方に動かすことができる唯一の筋肉でもある。後方へずらす機能により、口を閉じたときの顎の収まりをより安定させる役割を担っているという。

本研究内容は12月、解剖学の学術誌『アナルズ・オブ・アナトミー』(解剖学紀要)に掲載された。チームは第3層に対して「Musculus masseter pars coronidea(咬筋の筋突起部)」という新たな名称を付与するよう提案している。

矛盾していた従来の学説

以前にも咬筋を3層構成とする説は一部にあったが、その構造を正確に説明するものではなかったようだ。

解剖学の世界で事実上標準的な教科書となっている『グレイズ・アナトミー』は1995年刊行の旧版においてすでに、咬筋は3層構造であると説明している。しかし、科学ニュースを報じるエウレカ・アラートは、同書籍の説明の一部には信用性に欠ける面があったと指摘する。3層目の根拠として引用された複数の研究には、顎の別の筋肉に関して議論したものが含まれていたほか、研究同士の主張に矛盾がみられるなどの混乱があった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中