もし中国を攻撃するなら事前連絡する...トランプ時代の密約が明らかに
Perilous Authority
これは74年にシュレジンジャーとブラウンが行ったこととは違う。ニクソンから異例の指示があったら知らせるようシュレジンジャーに言われたブラウンは、各軍司令部の大将全てに自分とシュレジンジャーの確認を経ない限り、ニクソンからの「実行命令」には従わないよう命じていた。
この場合は命令への不服従にほかならない。だが愛国心に基づいたものであり、当時の状況下では正当と認められる不服従だった。一方でミリーの1月の行為は、統合参謀本部議長としては大胆だったが、単に手順の遵守を徹底させたかっただけであり、不服従と言えるものではない。
攻撃の事前通告を約束
新刊が明らかにしているもう1つのスクープは、もっと奇妙だ。トランプが「正気を失い」、中国を攻撃するのではないかと懸念したミリーは、核兵器を扱う高官らを招集したのと同じ頃、中国の李作成(リー・ツォチョン)統合参謀部参謀長に非公式ルートで電話をかけ、2点を確約していた。
ミリーはまず、暴動が起きようとしていたにもかかわらず、アメリカは「100%安定」しており「万事、問題ない」と李に伝えた。さらに昨年10月末の電話では、アメリカは中国を攻撃するつもりはないが、もし攻撃する場合は「事前に連絡する。奇襲攻撃はしない」と約束したという。
これが事実だとしたら、何とも衝撃的だ。歴史上、前例がない。ミリーは指揮系統から逸脱し、最高司令官(大統領)の方針や意向として自分が受け取ったことを無視すると断言したのだ。さらに大統領が攻撃を命じたら、敵の最高司令官に連絡すると約束し、奇襲攻撃がもたらす利点を自国から奪った。
ミリーが中国への奇襲攻撃に反対したことが正しかったかどうかという問題は、ひとまず脇に置いておこう。ここで考えるべきなのは、米軍の最高幹部が今回のミリーのような方法で、特定の攻撃への反対または回避行動を取ることが望ましいかどうかだ。民主主義と指揮系統を重視するなら、ミリーは国防総省や国務省など各組織の文民職員を集めてグループを設け、そこから攻撃に反対の声を上げるべきだった。
だが、ウッドワードとコスタによる記述が不完全な可能性もある。ネットメディア「アクシオス」の政治記者ジョナサン・スワンは9月15日の記事で、中国との極秘ルートを開設したのはミリーではなくマーク・エスパー国防長官だったと書いた。だとしたら憲法上、より適切な措置が取られたことになる。エスパーの狙いは、アメリカの攻撃が差し迫っているとみていた中国を安心させることだった。