最新記事

飢饉

気候変動による世界初の飢饉が発生か 4年間降雨なく、昆虫で飢えをしのぎ...マダガスカル

2021年9月8日(水)16時15分
青葉やまと

今後半年でさらに悪化か

今後の見通しは決して明るくない。例年9月から翌3月までは収穫物の在庫が不足しがちな傾向にあたる。9月からの半年間は、同国におけるペストの流行期とも重なる。国境なき医師団は、すでに例を見ない規模となっている飢餓が今後悪化し、12月までに131万人が飢餓状態に陥るのではないかとの懸念を表明した。

頼りの綱は経済だが、昨今の情勢からこれも振るわない。英インディペンデント紙は、例年であれば観光客で賑わっていたマダガスカルの経済がパンデミックにより悪化しており、さらに国境封鎖のため季節労働も難しくなっていると指摘する。

援助物資にも悪影響が生じている。南部の主要な港が感染症対策で封鎖されていることから、食料の物資は北部の港で荷下ろしされる。英テレグラフ紙の報道によると、港から国内の悪路を通じた陸送に最大で8日前後を要しており、南部地域への供給は滞りがちとなっている模様だ。

国連としても食料配給や衛生設備の向上など支援を行っているが、干ばつが予想を超えて長期化していることから、資金と体制が追いついていないのが現状だ。食料の市場価格は3倍以上に跳ね上がっており、一部地区では食べ物を調達するために土地を手放す人々も現れはじめた。

温暖化による世界初の飢饉か

WFPは、現在マダガスカルで進行中のこの事象が、世界で初めての気候変動による飢饉になる可能性があると指摘している。WFPのスポークスパーソンであるシェリー・タクラル氏は英スカイニュースに対し、「通常私たちが目にする飢餓は、紛争が原因で起きるものです」と語る。争乱ではなく気候変動によって大規模な飢餓が発生するのは異例のことだという。

事態は現在のところマダガスカル島の南部で進行しているのみだが、先進国にとっても他人事ではない。WFPは今夏ヨーロッパや北米などで頻発した大規模な森林火災を挙げ、こうした自然災害が単発の事象に留まらない可能性があると指摘している。

マダガスカルは国連が発表する「気候変動の影響に対して脆弱な国」の上位常連国だ。温暖化の影響が他の国よりも早期に出ているにすぎず、今後過酷な気候条件にさらされる地域は拡大する可能性がある。スカイニュースは本件を、地球規模で進行しつつある気候変動問題の「警鐘」だと報じた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・サウジ、安全保障協定で近く合意か イスラエル関

ワールド

フィリピン船や乗組員に被害及ぼす行動は「無責任」、

ワールド

米大学の反戦デモ、強制排除続く UCLAで200人

ビジネス

仏ソジェン、第1四半期は減益も予想上回る 投資銀行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中