最新記事

環境

EUの新環境対策に厳しい批判 その理由は?

2021年7月18日(日)08時58分
ポーランド・ベウハトゥフの石炭火力発電所

欧州連合(EU)欧州委員会は7月14日、域内の温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比で55%減らすという目標を達成するための新たな包括的対策を発表した。ポーランド・ベウハトゥフの石炭火力発電所で2009年5月撮影(2021年 ロイター/Peter Andrews)

欧州連合(EU)欧州委員会は14日、域内の温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比で55%減らすという目標を達成するための新たな包括的対策を発表した。しかし環境保護団体はもちろん、欧州委の内部からさえ、内容に批判の声が上がっている。今回の対策が称賛と同じぐらい反発を受けている理由を以下に示した。

適切な目標か

2015年の国連気候変動枠組み条約締約国会議で世界各国の合意により、温暖化抑制のための国際的な取り決めとして成立したパリ協定は、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて摂氏1.5度未満にとどめることをうたっている。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、この達成への道筋をつけるためには、30年までに世界全体の温室効果ガス排出量を10年比で約45%減らし、50年までに実質ゼロにすることが必要だ。そしてロジウム・グループのアナリストチームの見立てでは、EUが掲げる30年までの排出量目標を10年比に直すと46%減になる。

EUは、まだ石炭に依存する東欧諸国などと、もっと排出量削減を進めたがっている幾つかの富裕な加盟国の意見を調整してこの目標を定めた。

ただ国連は別の基準も提示。中でも19年の排出ギャップ報告書では20年から30年にかけて排出量を年7.6%ずつ減らすよう求めている。それ以来、EUの目標は踏み込み不足だとみなす環境団体の間で、この数字が広く引用されるようになった。

不満を唱える面々

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんは、EUの姿勢に疑問を投げ掛けている。ツイッターに「言行不一致に気づけ」というハッシュタグで「EUが90年比55%削減を目指す新たな対策を破棄しない限り、世界の平均気温上昇が1.5度未満に収まる可能性はなくなる。これは1つの意見ではなく、全体的な状況を踏まえれば科学的な事実だ」と書き込んだ。

反対派としてはグリーンピースも名の知られた存在だ。グリーンピースのEUディレクター、ジョルゴ・リス氏は「こんな対策を祝福するのは、まるで高飛び選手がバーの下をくぐってメダルを要求するようなものだ」と切り捨てた。

30年までに排出量を60%減らすよう提唱してきた欧州議会の欧州緑の党/欧州自由連盟(EFA)に属する政治家は、今回の対策を歓迎しつつ、改善の余地があるとの見方を示した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 5

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中