最新記事

台湾

出勤を認める、屋内飲食を禁止しない、アクリル板・消毒剤...台湾の感染爆発は必然だった

Saving Taiwan’s Success Story

2021年5月24日(月)18時30分
ウェイン・スン(米バッサー大学助教)、ホンホン・ティン(ミネソタ大学助教)
消毒剤噴霧の準備をする台湾軍の兵士

大規模なクラスターが発生した台北市万華区で消毒剤噴霧の準備をする台湾軍の兵士たち(5月16日) ANN WANG-REUTERS

<遅れてやってきた市中感染の拡大を克服するには、「過去の栄光」を忘れ、多くの民主主義国が取ってきた対策に学ぶことがカギとなる>

新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)が広がり始めた当初、台湾はいち早く抑え込みに成功して、世界の称賛を浴びた。水際対策を徹底し、マスクを増産し、厳格な接触者追跡・隔離システムを構築して、数カ月にわたり「新規感染者ゼロ」を達成してきた。

成果を世界にアピールすることも忘れなかった。世界中で医療物資が不足した時期にマスクを供給し、ニューヨーク・タイムズ紙には「助けられるのは台湾だ」という全面広告が有志により掲載された。2020年4月のことだ。

その台湾が今、大規模な市中感染に揺れている。急激な感染拡大と高い検査陽性率は、コロナのない生活に慣れた当局と市民の気の緩みが一因とも言われ、感染者をゼロに抑えるという「ゼロコロナポリシー」の長期的な実現可能性に疑問を投げ掛けている。

だが、台湾政府は昨年の経験から自信があったのか、従来と同じ戦略、つまりマスク着用と消毒剤の噴霧、接触者の検査と追跡、隔離、そしてクラスター発生場所の閉鎖を徹底することにした。

それでも急激な感染拡大が続いているところを見ると、これまでの戦略は、幅広い市中感染には効果が薄いのかもしれない。それなのに、台北市の一部でさえロックダウン(都市封鎖)は行われておらず、人々は外出自粛を奨励されているにすぎない。このためオフィスワーカーは今も会社に出勤している。

おそらく台湾は、この1年、試行錯誤を重ねてきた世界の国々の経験から学ぶ必要性を感じなかったのだろう。地政学的な理由からワクチンの確保は遅れているが、感染者が極めて少ない段階では、ターゲットを絞った検査と接触者追跡と隔離で十分だった。

だが、昨年3月に台湾がコロナ封じ込めに成功した後、世界では、このウイルスについてさまざまな知見が得られてきた。感染は主に、屋内で近接した場所にいる人の接触により起こること、屋内でマスクをしていても感染する可能性があること、そしてこのウイルスは飛沫感染するため換気が重要であることなどが、専門家の一致した見方になっている。

だとすれば、台湾当局がフレックス勤務や在宅勤務を奨励するばかりで、今もオフィスワーカーの出勤を認め続けていることは、感染拡大防止という目標と矛盾する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中