最新記事

パンデミック

コロナ禍で帰国者続出 イタリアの華僑コミュニティー

2021年5月22日(土)12時33分
新型コロナに感染した人の家の消毒作業

コロナ禍による予想外の犠牲を被ったのが、イタリア国内で有数の中国人コミュニティーだ。トスカーナ州の小都市で30年以上にわたって拡大してきたコミュニティーは、いま急速に縮小しつつある。写真はプラートで、新型コロナに感染した人の家を消毒するために集まった市民保護団体。14日撮影(2021年 ロイター/Silvia Ognibene)

コロナ禍による予想外の犠牲を被ったのが、イタリア国内で有数の中国人コミュニティーだ。トスカーナ州の小都市で30年以上にわたって拡大してきたコミュニティーは、いま急速に縮小しつつある。

フィレンツェの北方17キロにあるプラートで中国人が暮らし始めたのは1980年代の終わり頃だった。イタリアのファッション産業を支える工場群ではいくらでも仕事が見つかったからだ。

中国東部の浙江省の出身者を中心とする移民は、国内ブランドへの供給を担う高級志向のイタリア企業と並んで、低価格の生地を生産する産業を生み出した。

結束の固いコミュニティーは年々拡大し、2019年末には約2万5000人を数えるに至った。人口20万人の街には約6000社の中国系企業が存在し、プラートは欧州最大の中国系産業の集積地の1つになった。

ところが昨年春、新型コロナウイルスがイタリアを襲った。以来、プラートの中国人コミュニティーの10%に当たる約2500人が街を去った。

プラートで暮らす多くの中国人にとっては、新型コロナが1つの転機となり、欧州で最も低迷するイタリア経済において、自分たちにどのような未来が待っているのかという疑念を高めることになった。

最初のうち、中国人は新型コロナを拡散させた原因とされ、差別に苦しんだ。その後、イタリア国内での死者が増加する中でほとんど犠牲者を出さなかった中国人コミュニティーは、新型コロナ対策の模範として話題にされるようになった。

だが今、多くの中国系住民は諦めつつある。新型コロナを背景としたリセッション(景気後退)に疲弊する中で、パンデミック対策で他国よりも成功し経済の展望も明るい中国に戻る誘惑に駆られている。

プラートで約30年暮らしたシモナ・ツォウさん(50)は、自分のニットウェア工場を家族に託し、昨年7月に浙江省に戻った。

基礎疾患を抱えるシモナさんは、新型コロナに対する不安が強く、ウイルスがほぼ制圧された中国で母親と暮らす方が安全であるように感じていた。

シモナさんの娘でプラート市議会議員も務めるテレザ・リンさんは、「母がここに戻ってきたら、ほぼ家に閉じこもっていなければならないが、浙江省では何の制限もなく、人々はマスクさえ着けていない」と話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ラファ攻撃は「人道上の悪夢」、停戦合意に尽力を=国

ワールド

米英豪、ロックビットのロシア人幹部に制裁 ランサム

ビジネス

米金融政策、想定ほど引き締まっていない可能性=ミネ

ビジネス

米当局、テスラに詳細要求 「オートパイロット」リコ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    「ハイヒールが効率的な歩行に役立つ」という最新研究

  • 8

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 9

    メーガン妃を熱心に売り込むヘンリー王子の「マネー…

  • 10

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中