最新記事

米司法

右傾化した米連邦最高裁の「死のノート」判決 トランプ退任後も乱発

2021年3月27日(土)09時50分

下院司法委員会は2月18日、通常の司法監視機能の一環として、「シャドー・ドケット」に関する最初の公聴会を開いた。この中で民主・共和両党のメンバーは、同手続きの秘密主義的な性質への懸念を表明した。

だが一部の共和党関係者は、独自に緊急措置を申請することでバイデン政権の政策を手軽に阻止できる可能性があることを歓迎している。アラバマ州のスティーブ・マーシャル司法長官(共和党)は、他州の共和党系司法長官とともに、違法と思われるバイデン政権の政策を阻止するために、「シャドー・ドケット」適用の申請を行うことを「断固として」考慮するだろうと述べている。

「(迅速に)勝ち負けを決定する本当のチャンスだ」と彼は言う。

トランプ政権下の司法省で勤務していた弁護士のハシム・ムーパン氏は、最近の事件について連邦最高裁が「シャドー・ドケット」を利用していることを擁護する。同氏によれば、特定の司法管轄地域にしか適用されないはずの下級裁判所の判決が全国規模の政策を阻害している現状があり、「シャドー・ドケット」申請の多くはそうした問題が契機になっている。

「全国規模でそうした問題に見解を出すとすれば、連邦最高裁がその役にふさわしい」とムーパン氏は言う。

死刑判決では顕著な変化

テキサス大学オースティン法科大学院のスティーブン・ブラデック教授によれば、トランプ政権は任期中に「シャドー・ドケット」申請を41件提出、そのうち28件が承認されており、70%近い成功率となっている。ジョージ・W・ブッシュ政権とバラク・オバマ政権の16年間に提出されたのはわずか8件、そのうち4件が承認された。

シカゴ大学のボード教授は、「明らかに偏りが見られる」と語る。「政府、特に連邦政府には、裁判所の注意を惹く特別な能力がある」

「シャドー・ドケット」は以前から連邦最高裁の業務の中で使われてきたが、トランプ政権の司法省は、これまでの慣例に反し、気にくわない下級裁判所の判決を覆すべく、時には控訴裁判所の頭越しに、こうした緊急措置の申請を繰り返してきた。

最も顕著な変化が、連邦裁判所での死刑判決をめぐるものだ。昨年7月から1月までのあいだに、連邦最高裁判事は8回にわたり、連邦政府による死刑執行を停止した下級裁判所の判決を覆してきた。ほとんど、あるいはまったく説明が行われないことも多かった。

たとえば連邦最高裁は1月13日未明、たった2文の簡潔な命令により、ミズーリ州における陰惨な殺人事件に関するリサ・モンゴメリー死刑囚に対する刑の執行を可能にした。ミズーリ州で収監されていた52歳のモンゴメリー死刑囚は、2004年12月に、当時妊娠8カ月だったボビー・ジョー・スティネットさんを絞殺した罪で死刑判決を受けた。モンゴメリー死刑囚は逮捕前、スティネットさんの子宮から胎児を取り出し、自分の子に見せかけようとしていた。

2つの下級裁判所は、技術的な理由により死刑執行を停止していた。だが連邦最高裁は、根拠を示さないまま、双方の判決を覆した。

モンゴメリー死刑囚は、連邦最高裁による最終決定から90分後、薬物注射による死刑を執行された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中