最新記事

インド

国際IT都市バンガロールが深圳を追い抜く日

Bengaluru Is the New Shenzhen

2021年2月11日(木)09時00分
サルバトール・バボーンズ(豪独立研究センター非常勤研究員)

下流ではさらに莫大な雇用創出の可能性がある。フリップカートの倉庫作業員や、オーラのドライバーなどだ。

中国などハードウエアの製造・輸出によって大きな成長を遂げた国は、製造業をアップグレードすることで多くの雇用を創出してきた。とりわけ世界的な金融センターである香港と、製造業の中心である東莞に挟まれた中国の深圳は、第2のシリコンバレーと呼ばれるまでに成長した。

深圳にもアプリ開発のエコシステムがあるが、国内市場をターゲットにした会社がほとんどだ。アリババや滴滴出行(ディーディーチューシン)、TikTok(ティックトック)など、外国で大きな成功を収めているサービスやアプリもあるが、あくまで少数派だ。

しかもアメリカの制裁(ジョー・バイデン新大統領の就任後も続きそうだ)と、中国政府によるイノベーターや起業家に対する締め付けの強化で、多くの外国企業は対中投資に慎重になっている。

中国との決定的な違い

その点、インドには重要なアドバンテージがある。中国のような規制のない自由なインターネット環境、エンジニアとプログラマーのほぼ全員が英語を話せること、そして世界最大級のインターネット利用人口などだ。実際、インドはアップルのiOS系アプリでも、アンドロイド系アプリでも、ダウンロード数は世界一だ。

しかもインドのテクノロジー企業は、国内市場だけでなく、グローバル市場に完全に統合されている。アップルやグーグルやマイクロソフトにはかなわないかもしれないが、そもそもそれを目指す必要はない。グローバルなエコシステムの中で、アメリカのライバルと共存し、繁栄し、競争し、協力することができるはずだ。

究極的には、バンガロールも深圳も、第2のシリコンバレーにはならないだろう。インターネットの世界では、各分野で頂点に立てる企業は1つしかない。そのことに気付いた中国は、グローバル市場を捨てて、中国企業だけが活動する、厳しく監視された箱庭をつくった。

その戦略は目覚ましい成果をもたらしたが、究極的には自滅的だ。確かに中国企業も画期的なアプリをいくつか生み出してきたが、アプリ経済を牛耳る基本システムのiOSやアンドロイド、そしてウィンドウズに取って代わる可能性はゼロだ。

インドは中国のようにインターネット環境に壁を張り巡らせるのではなく、グローバル市場にどっぷりつかってきた。アメリカの大手プラットフォーム企業は既にバンガロールに拠点を持ち、地元のアプリ開発エコシステムに投資している。

こうした投資をバンガロールやハイデラバードなどのテクノロジーハブだけでなく、全国の雇用創出につなげられるかは、インド政府次第だ。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2021年1月26日号掲載>

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

海運マースク、第1四半期利益が予想上回る 通期予想

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中