最新記事

人権問題

中国、チベットで「労働移動」政策強化 職業訓練を経て建設現場などに

2020年9月22日(火)19時29分

中国政府は、チベット自治区の農村部の労働者を最近建てられた軍隊式の訓練施設に移動させ、工場労働者になるための訓練を受けさせる政策を拡大している。写真はラサのポタラ宮殿と中国国旗。2015年11月撮影(2015年 ロイター/Damir Sagolj)

中国政府は、チベット自治区の農村部の労働者を最近建てられた軍隊式の訓練施設に移動させ、工場労働者になるための訓練を受けさせる政策を拡大している。新疆ウイグル自治区でも同様のプログラムが進行しており、人権擁護団体からは強制労働として問題視されている。

国営メディアの多数の報道やチベットの政府機関の政策文書、ロイターが確認した2016─20年発行の調達申請書によると、中国政府はチベットの農村部労働者の自治区内外への大量移動について割当人数を設定した。

チベット自治区政府のウェブサイトに先月、掲載された通知は、この政策の一環として2020年1─7月の期間にチベット自治区の人口の約15%に相当する50万人以上が訓練を受けたとした。このうち、5万人近くが自治区内の仕事に就くために移動させられ、数百人が他の地域に送られた。多くは繊維製造や建設、農業を含む低賃金の業種に従事することになった。

チベットと新疆を専門とする独立系の研究者、エイドリアン・ゼンツ氏は「チベットの伝統的な暮らしに対する、恐らく文化大革命以降で最も強力、最も明白かつ的を絞った攻撃だというのが私の見解だ」と述べた。

同氏がまとめたチベット族を標的とする労働政策の核心的部分について調査結果は、ワシントンを本拠とするシンクタンク、ジェームスタウン財団が今週公表した報告に詳細に記されている。同氏は「遊牧生活や農業から賃金労働への強制的な生活様式の変更だ」とした。

ロイターはゼンツ氏の調査結果を補強する追加の政策文書や企業の報告書、人材調達の申請書、同政策について伝えている国営メディアの報道を入手した。

『強制労働』は断じて存在しない

中国外務省はロイター宛ての文書で、強制労働が伴っている可能性を強く否定。中国には法の支配があり、労働者は任意で働き、適切な報酬を得ているとした。

「秘められた狙いがある人々が呼ぶところの『強制労働』は断じて存在しない」とした。

農村部の余剰労働力を製造業に振り向ける政策は中国による経済振興と貧困削減の取り組みの主要部分を成してきた。ただ、人権擁護団体によると、新疆やチベットのように少数民族が占める割合が大きく、歴史的に政情が不安定な地域では、職業訓練プログラムは思想教育に過度に重きを置いているという。さらに、政府が設定する労働移動の割り当て人数の設定や軍隊式の管理は、強制的な要素があることを示唆していると、これら団体は指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中