最新記事

日中関係

ポストコロナの日中関係:歩み寄る中国外交の本気度を見極めよ

EAST ASIA POST-CORONAVIRUS

2020年5月8日(金)18時00分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

習近平国家主席は日本に中立のメリットを売り込む可能性が大  REUTERS/Kevin Lamarque

<米中冷戦で日本の中立を望む中国は領土や安全保障でも譲歩を提示する? 本誌「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集より>

猛威を振るう新型コロナウイルス禍はまだ終わりそうにないが、終息後の世界の輪郭は見え始めてきた。

まず、明るい兆しはない。1930年代の世界恐慌と同じく、危機の中で国際協力体制は破綻した。各国は国境を封鎖し、重要な医療用品の輸出を禁止している。国連とWHO(世界保健機関)は存在感を失った。コロナ禍が世界恐慌と同様の影響を世界秩序に与えるならば、たとえワクチンが早期に開発されても、保護主義の強化で経済は分断され、地政学的リスクは深刻化するだろう。
2020050512issue_cover_200.png
そんななかで日中外交はどう変わるのか。中国が日本へ「歩み寄り」を強めるというのが1つのシナリオだ。

世界恐慌後の地政学的紛争の中心地はヨーロッパだったが、コロナ後の火薬庫は東アジアになりそうだ。そこではアメリカと中国が貿易やテクノロジー、安全保障、ソフトパワーをめぐり権力と影響力を競うことになる。東南アジアと朝鮮半島も覇権争いの舞台の一角を占めるが、米中冷戦の最前線は日本になるはずだ。

中国はアメリカと同様に、日本の重要性を理解している。だからこそ米中摩擦の長期化が明らかになってきた2018年の後半、中国は親日路線へと百八十度の方針転換をした。日米の強固な結び付きを知っているからこそ、中国指導部はより実現可能な目標を立てるだろう。日米同盟を引き裂き日本を中国との同盟に取り込むのが不可能なのは承知している。だが日本の戦略的中立を取り付けることなら、より現実的だ。名目上はアメリカの同盟国でも、日本はアメリカより自国の国益を優先し、独自に対中政策を模索するだろう。

中国が実質的に取り得る手段は、貿易や安全保障、領土問題などで相応の譲歩を日本に持ち掛け、中立のメリットを売り込むことだ。より難しい判断を迫られるのは日本のほうになる。アメリカの機嫌を損なわず、同時に中国に対しても最低ラインを踏み越えないよう見極めて決断しなければならない。中国は日本に対し、これ以上は譲れないギリギリの線を提示しなければならないだろう。

口約束ではなく行動を注視

このシナリオが現実になるなら、中国は今後数年にわたり、日中関係強化へと攻勢を強めるに違いない。具体的な経済上のメリットを提示するだけでなく、領土問題や北朝鮮の核問題など日本にとっての重要課題でも恩恵をちらつかせるだろう。尖閣諸島の領有権を放棄することはできなくても、「平和と安定を揺るがす行為」を放棄すると誓う共同宣言を日本と共に発表することは可能だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルとの貿易全面停止、トルコ ガザの人道状況

ワールド

アングル:1ドルショップに光と陰、犯罪化回避へ米で

ビジネス

日本製鉄、USスチール買収予定時期を変更 米司法省

ワールド

英外相、ウクライナ訪問 「必要な限り」支援継続を確
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中