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剛腕ゴーンが落ちた「コンプライアンス・クーデター」の闇

Ghosn is Gone

2018年11月29日(木)16時40分
北島 純(経営倫理実践研究センター主任研究員)

企業もそうした動きに無縁ではない。15年6月、孫正義社長の後継者として鳴り物入りでソフトバンク代表取締役副社長に就任したニケシュ・アローラがわずか1年で「任期満了」に伴い退任したのは、ソフトバンクとの利益相反に当たる投資取引を行っているのではないかという匿名の告発をきっかけとした特別調査の直後だった。

退職金を含めて、役員報酬として300億円を超える巨額の金銭を短期間で手にしたアローラ退任の経緯については、今年になってソフトバンクが特別調査委員会を設置して再検証を開始したが、利益相反の疑惑追及が社内関係者の内部告発によるものだった可能性がある。そうだとすれば、これも一種のコンプライアンス・クーデターだったと言える。

虚偽の自白を生むリスク

今回の事件は、司法取引を前提としたコンプライアンス・クーデターが今後、日本で本格化する可能性を示している。コンプライアンスには誰も正面から異議を唱えられないからだ。

17年には米ウーバーの創業者トラビス・カラニックCEOが、セクハラなどのコンプライアンス違反の管理責任を問われ辞任に追い込まれたことは記憶に新しい。CEO自身ではなく、部下のセクハラなどのコンプライアンス違反の管理責任を問われたという「間接型」だが、コントロールが難しかったじゃじゃ馬CEOを投資家が追い落としたという点ではクーデターだ。

しかし、企業のコンプライアンス違反を口実とした「クーデター」には、捜査機関との司法取引で都合の良い虚偽の自白が行われるリスクもある。日本企業はこの「両刃の剣」を使いこなせるのだろうか。

<本誌2018年12月4日号掲載>



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