最新記事

日本文化

海外で見た酷すぎるクールジャパンの実態~マレーシア編~

2018年6月11日(月)14時30分
古谷経衡(文筆家)

日本のアニメ・漫画の勇姿は、このThe Japan Storeの中にまったく、影も形も無いのである。私の怒りはやがて諦観へと移行する。マレーシアにおけるクールジャパンの中心と「お上」が位置づけているThe Japan Storeの中には、日本文化など存在しないのである。愕然と膝から落ちる感覚が筆者の全身を襲ったのである。

【カルチャーフロア・3F】最後の希望を求めて書籍コーナーへ

furuya20180611095911.jpg
日本文化を紹介するブックコーナーには、日本に関する書籍はごく僅かで、日本とか日本文化とは無縁の、インテリアと化した洋書が平積みされている 筆者撮影

しかし、日本産アニメは駄目でも、日本の漫画くらいは置いてあるだろう、という儚い希望に一縷の光を求めて、私は同階のブックフロアーに行く。ここには当然のこと、大友克洋のAKIRA全巻が揃っていてしかるべきである。きっとそうであろうと思って向かえば、同階のブックフロアーは、如何にも意識高い系が好みそうな、瀟洒な複合書店のグランドフロアーに陳列品として展示してある、日本とか日本文化とは何の関係も無い、インテリアとしての洋書が展示されているばかりなのであった

血眼になって日本産の漫画をかざすと、このブックコーナーの一角に僅かに柱の二面だけが日本漫画のコーナー(英字翻訳)として陳列されている。しかしここにあるのは、大友克洋ではなく、なぜか『ガンダムジオリジン』と、一巻だけの『アイアムアヒーロー』、漫画版『風の谷のナウシカ』が全巻セットで置いてあるのが唯一の慰みであったが、海外でまず「クールジャパン=ジャパニメーション」の筆頭にあげられる大友も押井も無い。おそらく「お上」が押井も大友も知らないのでは無いか

意図は分からないが、マレーシアが世俗的イスラーム教国というのを忖度してか、漫画大賞を受賞した森薫さんの『乙嫁語り』がほぼ全巻揃っている。しかし、『乙嫁語り』の舞台は中央アジアであってマレーシアとは関係が無い。そら寒い。余りにも酷い。The Japan Storeは、日本とだけ名を冠した無人展示室であり、その内実も日本文化の紹介とは無縁の物体だけが転がっている。ここに血税が10億円弱も投入されたのだ。

付け加えると、The Japan Storeの最上階(4F)は日系飲食店のレストラン街だが、ここには辛うじてまばらに客が入っている。ただ単価が高いので客層は現地の富裕層か外国人(日本人含む)に限られているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P横ばい、インフレ指標や企業決算

ワールド

メリンダ・ゲイツ氏、慈善団体共同議長退任へ 名称「

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、今週の米経済指標に注目

ワールド

原油価格上昇、米中で需要改善の兆し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 8

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 9

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中