最新記事

安全保障

日本、北朝鮮に打つ手なし?

2017年8月30日(水)20時45分
マイケル・ペン(新月通信社)

唯一いつもと違ったのは、安倍政権では珍しい穏健派で、就任して間もない河野太郎外務大臣のコメントだ。報道陣から、南方のグアムでなく北海道上空に向けてミサイルを発射した北朝鮮の狙いを尋ねられた河野は言った。「(グアム方向の)南に向けて打てば、今まで(北朝鮮が)それなりの挑発をし、米国がそれに対して対応をとってきたことを考えれば、北朝鮮がそれに少しひるんだということではあるのだろう」

つまり、北朝鮮がひるまなければ、事前の警告通りにグアム周辺にミサイルを撃ち込んでドナルド・トランプ米大統領の言う「炎と怒り」に真っ向から挑んでいたかもしれない、と河野は言うのだ。アメリカから報復を受けかねないこの恐ろしいシナリオに比べれば、北海道上空を飛ばすほうがはるかに気楽だったろう。

北朝鮮から飛んでくるミサイル発射に対抗する手段がないことを考えれば、日本政府としては当然、ミサイルなど大したことではないかのように扱うのが賢明だろう。

安倍を中心にした国家安全保障会議の議論を想像するのは簡単だ。
「日本は北朝鮮のミサイル発射を容認できるか」
「絶対にできない」
「北朝鮮による脅威に対して断固とした行動を取るべきか」
「絶対にそうだ」
「どうすれば有効な対抗措置を取れるか」
──選択肢はあまりない。有効な選択肢は、ゼロだ。

日米同盟を強調

当然ながら、日本政府は北朝鮮を強い言葉で非難した。日米韓などの関係国は北朝鮮に対する圧力を一層強化すると表明し、国連安保理は緊急会合を開催し「強く非難する」議長声明を全会一致で採択した。経済制裁に関しては、すでにほとんどの手段を使い切っている。日本政府は北朝鮮の核・ミサイル開発を大転換させる影響力を持っていないし、誰もがそのことを知っている。

北朝鮮の脅威が増せば、日本は一層アメリカに接近する。アメリカなら、最悪の場合に北朝鮮を滅ぼせるからだ。自民党は、ミサイルが発射された当日の午後に緊急会議を開催。二階俊博幹事長は日米同盟の重要性を強調して言った。「安倍晋三首相はトランプ大統領と電話会談を行って意見交換し、強固な日米同盟の下で国民の生命を守る強い決意を示した」

安倍は断固とした行動を取りたいという政治的な直感があるが、今回もこれまでと同じく、強い言葉で非難はしても行動はしない、という対応を取るだろう。もし安倍が何か他に好ましい選択肢を見つけていれば、脅威がここまで悪化するよりずっと前の段階で行動していたはずだからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中