最新記事

中朝関係

中国は北にどこまで経済制裁をするか?

2017年5月1日(月)20時50分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国国境の街で生産に励む、北朝鮮のスポーツメーカー  Aly Song-REUTERS

北朝鮮が核実験に踏み切れば中国は完全「断油」を考えている。だから北朝鮮は小規模なミサイル試射に留めている。米国も手詰まりの中、中国の制裁に期待するしかない。中国が推進する辺境貿易の特殊性を分析する。

中朝貿易には政府レベルと辺境レベルがある

中朝貿易を大きく分けると、中国政府が認可した企業が行う「一般貿易」と、国境周辺の地方人民政府が許認可権を持っている「辺境貿易」の二種類がある。北朝鮮に関しては、吉林省延辺朝鮮族自治州など、北朝鮮と国境を接する地域が辺境貿易地区と指定されている。

辺境貿易は北朝鮮に限られたものでなく、1989年6月4日の天安門事件などを受けて頓挫した改革開放路線に対して、業を煮やした鄧小平が1992年に市場経済の号令をかけたことから始まる。

1992年初頭、国務院は13の都市を「辺境貿易都市」として指定した。その主たるものは黒竜江省の黒河、吉林省の琿春、内蒙古の満州里...などがある。1994年には「中華人民共和国対外貿易法」第八章第四十二条に明記し、その後激しい勢いで発展していった。

ひところテレビでよく見られたロシア国境でのごった返した市民レベルの貿易や北朝鮮国境の延辺などにおける光景が、その最たる例である。本来は20キロ以内となっていたが、どんどん広がっていき、2000年には中朝貿易は、たとえば一般貿易「90」に対して辺境貿易は「3,000」に達するに至っている。

文革期における紅衛兵による金日成罵倒――罪状20項目

朝鮮戦争(1950年~53年)以降における中朝関係が非常に険悪なものだったことは4月25日付の本コラム<中朝同盟は「血の絆」ではない――日本の根本的勘違い>に書いたが、その後の文革期(1966年~76年)における北朝鮮の存在は、「敵国」さながらのものとなっていった。

毛沢東を崇拝する紅衛兵たちが、金日成(キムイルソン。金正恩の祖父)を走資派あるいは逃亡派として血祭りに上げ始めたのだ。

走資派というのは、主として金日成が背広を着ていて黒メガネをかけ、かつ男女関係が非常に乱れていたといった種類のことが批判対象となっており、逃亡派というのは、旧ソ連との間の中ソ対立が激しい中で、「金日成は敵国ソ連に逃亡した売国奴だ」という類いのものだ。それも日中戦争中、中国東北における抗日聯軍を毛沢東の力を得て組織しながら、中国共産党の第一路軍や第二路軍などを引き連れて1940年にソ連に逃亡したということが大きな罪状として挙げられた。

おまけに筆者が住んでいた吉林省長春市の食糧封鎖(1947年~48年)の包囲に配備されていた朝鮮人八路(第八路軍)を新中国誕生(1949年)とともに朝鮮に帰国させている。その後彼らを粛清し、朝鮮戦争で中国人民志願軍が血を流した事実を侮辱したなど、罪状は20項目に及び、激しい金日成批判運動が展開された。北朝鮮も負けていず、国境の鴨緑江(おうりょくこう)を挟んで、互いの罵倒合戦が展開されたほどだ。

中朝貿易どころの騒ぎではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、PPIはインフレ高止まりを

ビジネス

米アマゾンの稼ぎ頭AWSトップが退任へ

ビジネス

ソニー、米パラマウント買収を「再考」か=報道

ビジネス

米国株式市場=上昇、ナスダック最高値 CPIに注目
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中