最新記事

イスラム化

フィリピンが東南アジアにおけるISISの拠点になる?

2017年5月29日(月)17時30分
エレノア・ロス

安全保障が専門のローハン・グナラトナはロイター通信に対し、今回の衝突を機にフィリピン政府は目を覚ますべきだと指摘した。「フィリピンの主要都市の1つをISISが掌握したことは、地域の治安と安定にとって非常に由々しき事態だ。ISISのイデオロギーが自分たちの国を浸食している事実を理解しなければならない。地元の武装組織がISISに変貌してしまったのだから。フィリピン国民は一致団結して立ち向かわなければならない」

ドゥテルテはミンダナオ島の最大都市ダバオの市長として頭角を現し、昨年の大統領選でフィリピンに安定と平和をもたらすという公約を掲げて勝利した。

ミンダナオ島のイスラム系武装組織の実態は?

ミンダナオ島は韓国と同じくらいの面積で、人口は2200万人。この島では近年、カリフ制国家の樹立を画策するイスラム系武装勢力がはびこってきた。

MILFはイスラム勢力による新自治政府の設立を目指す武装組織だが、40年以上紛争を続ける政府との和平達成に向けて和平協議に応じる姿勢を見せていた。

アブサヤフはISISと関係が深いとされ、フィリピン南部でイスラム国家の樹立を目指す反政府勢力を支援してきた。身代金目的の海賊行為や、外国人や地元住民を狙った誘拐や斬首などの蛮行で悪名高い。創設者のアブドラジャク・ジャンジャラニは、国際武装組織アルカイダの指導者だったウサマ・ビンラディンに感化されたとみられている。

ISISへの忠誠を誓うマウテグループを率いるのは、オマールとアブドラのマウテ兄弟だ。フィリピン紙フィルスターによれば、マウテ兄弟は中東地域で契約社員として働きながらイスラム神学を学び、「はたから見れば残酷で時代遅れも甚だしいタリバン流の司法制度」を普及させるためにフィリピンへ帰国した。

マウテグループには80~100人のメンバーしかいないとみられている。フィリピンで活動する他のイスラム武装組織と比べれば取るに足らない数だが、イスラム過激派武装組織が扇動するハリーファ・イスラミア運動にも加わっているようだ。

懸念はフィリピンの若者の過激化

昨年9月にダバオの夜市で15人が死亡した爆弾テロや、同11月に首都マニラの米大使館付近に爆発物が仕掛けられた事件も、マウテグループの関与が疑われている。

マウテグループは麻薬取引に関与しているとみられており、今年3月にフィリピンのアルベルト・デラロサ国家警察長官は、同グループがマニラも拠点化したようだと述べた。

フィリピンのホセ・カリダ検事総長によれば、マウテグループとアブサヤフの目的は、ミンダナオ島でISISのカリフ国家を樹立すること。カリダはロイター通信の取材に対し、こう述べた。「キリスト教徒であれ、イスラム教徒であれ、彼らが異教徒とみなせば標的になる。憂慮しているのは、ISISがフィリピンにいる多数の若いイスラム教徒を過激化させていることだ」

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー

ワールド

焦点:中国農村住民の過酷な老後、わずかな年金で死ぬ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの文化」をジョージア人と分かち合った日

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中