最新記事

対談

「保守」「リベラル」で思考停止するのはもうやめよう~宇野重規×山本一郎対談(1)

2016年8月5日(金)16時03分
BLOGOS編集部

 改憲=保守、護憲=リベラル・革新。あるいは、与党は保守で野党はリベラル・革新。そういったイメージが定着している。一方、「護憲ならば保守で、改憲するのは革新ではないか」という指摘を目にすることもある。一体、「保守」とは何なのか。何を「保守」するのか。

 編集部では、先月『保守主義とは何か――反フランス革命から現代日本まで(中公新書)』を出版した政治学者の宇野重規氏とブロガーの山本一郎氏に、目下の政治状況を振り返りながら、とかく定義が混乱しがちな「保守主義」の本流について語り合ってもらった。【大谷広太、村上隆則(編集部)】

対立軸を提示できなかった与野党

山本一郎氏(以下、山本):先日の選挙は、幸いにして参院選でしたが、これが政権選択選挙だったら、目も当てられなかったと思います。

 日本がどんどん貧しくなっていくという時に、じゃあ、社会保障をどうしましょう? このままでもちますか? 日本社会が目指す先は「高福祉高負担」ですか、それとも「低福祉低負担ですか?」というような分かりやすい二元論でさえも議論として成立しない状態になると、なんのための2大政党制なんだと思ってしまいます。

【参考記事】「参院選後」の野党、国会、有権者のあるべき姿とは?――吉田徹・北海道大学教授に聞く

宇野重規氏(以下、宇野):大都市を中心に国際経済の中で勝ち抜いて行くというモデルでいくのか、それとも地方を復活させて成長させるかというのは、路線対立としてあっていいと思います。

山本:どんな努力を払っても、地方にはもう人は増えないという前提で、ですね。衰退はしていくんだけど、そこに住んでいる人達がより幸福で、社会的コストに見合った福祉の行き届いた環境づくりをするためにどういう政策が可能なのか考えた方がいい。それはある種の"撤退戦"なんだけども、そこで"どういう日本であるべきか"ということも合わせてもっておかないといけないと思います。

 ただそういうときに出てきがちな、「商店街があって、お祭りができるようなところにするんだ」という若者が地方にいることありきの目標には、ある種の革新系が持つ理想の高さみたいなものがそのまま引き継がれているところがあるのかなと思うんですよ。

宇野:戦後の革新が持っていた、どちらかというと社会保障に関して、幅広く、違う意味で"バラマキ"をするという感覚がまだ残っているのかもしれないですね。

山本:福祉に関する議論にしても、国民は感覚でしか分かっていない部分があります。それをもうちょっと噛み砕いて、政策分野ごとのフレームワークに落としこむ必要がある。地域の貧困率や経済成長率といった尺度で見せるだけでも随分と違うわけです。それが分かれば、今の日本社会において、何が大事かっていう価値判断にも繋がっていく部分があると思うんです。

 やはり、戦後の日本人は自分達が豊かになって、その豊かさを次の世代にどう引き継いでいくかという中で、「社会の豊かさを示すパラメーターのなかで、あなたは何を大事にしますか?」というメッセージを出す必要があるんではないかと。

宇野:負担が大きいけれどもサービスも大きい「北欧型の大きな政府」、もしくはサービスは小さいけれど、負担も小さい「アメリカ型の小さな政府」。もはや、そのどちらかのモデルを選択するという時代ではないんですよね。負担は増える一方だけれど、サービスは少ないという時代ですから。

 そんな中にあって、経済成長することによってトリクルダウンするモデルか、ボトムラインを支えて貧困層を上に持っていくっていうモデルか。少なくともそれぐらいの選択肢は提示されてしかるべきですよね。

山本:仰るとおりです。それこそ都市と地方、年寄りと若者、富裕層と貧困層などの対立軸があって、どうそれらが壊れようとしているか、分断しようとしているのかを、もうちょっときちんと説明していくべきだと思います。その中で、「みな、日本社会を構成する人々である」という同志意識を持ちながらも、減っていく予算の中でよりしっかりとした社会運営を行うためにはどうしていくべきかと。

宇野:どちらかを捨てるのはムリだと思いますが、比重をどちらに置くかという選択肢は重要だと思います。

 そして、同志意識とまで言わないまでも、少なくとも一つの同じ島でともに暮らしている以上、なんとかお互いを支えあっていく理念を持たなければならない。その理屈が飛んでしまって、安易なナショナリズムで煽るしかなくなっている。"敵を作る"発想になってしまうんですね。本当は、「自分達の社会が大切にしている価値とはなにか」を問わなければならないはず。

山本:日本人として「これだけは残したい」と誰かが明言すべきなのに、それが言えてない。

宇野:全てを残すことはもうムリですからね。だからあえて選ばなければいけない。その何を選ぶかということが、前に進む原動力にもなるわけです。だからある意味では、保守主義が社会の推進力になる、変な時代とも言えるかもしれません。

山本:宇野先生の本でも触れておられた「保守革命」ですよね(笑)。すごく矛盾した言い方ですが。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

英サービスPMI4月改定値、約1年ぶり高水準 成長

ワールド

ノルウェー中銀、金利据え置き 引き締め長期化の可能

ワールド

トルコCPI、4月は前年比+69.8% 22年以来
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中