最新記事

ヒラリー

米大統領選挙、「クリントンなら安心」の落とし穴

アウトサイダー待望論が吹き荒れるなか消去法で当選しても、エリート政治家として嫌われる運命

2016年4月27日(水)18時00分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

好かれない 強い大統領になるためには、国民の熱狂的な支持がいる Charles Mostoller- REUTERS

「最終的に大統領になるのはヒラリー・クリントン。そんなにトランプ旋風を心配する必要はない」という声が聞かれる。しかし、クリントンにはクリントンのリスクがある。油断は禁物だ。

勝利へ堅実に前進するクリントン

 荒れに荒れる米国の大統領選挙において、民主党のクリントンが堅実に前進を続けている。4月26日に行われた民主党の予備選挙では、大票田のペンシルバニア州などでクリントンが勝利を納めた。指名候補を決める代議員の獲得数では、追いすがるサンダース上院議員との差が広がった。よほどの波乱がない限り、クリントンの指名候補獲得は揺るがないだろう。

 共和党候補との決戦となる11月の本選挙でも、クリントン有利との評価が多い。「トランプとクリントンなら、どちらに投票するか」という世論調査では、クリントンがトランプを10ポイントほどリードする結果が目立つ。

 共和党でトランプが指名候補獲得に近づくほど、本選挙ではクリントンが有利になるようだ。「どちらに投票するか」という世論調査によれば、共和党の候補者のなかでトランプは、クリントンに対して最も分が悪い(図表1)。現時点の世論調査によれば、共和党の候補者がクルーズであれば接戦、ケーシックであればクリントンが敗れるという結果になる。 

 4月26日に5つの州で行われた共和党の予備選挙では、そのトランプがすべての州で勝っている。クリントンには、ここでも追い風が吹いている。

yasui160427-chart01.jpg

好かれていないクリントンに弱い大統領になるリスク

 クリントン優位の展開を背景に、「最終的に大統領になるのはクリントン。そんなにトランプ旋風を心配する必要はない」という声を聞くようになった。今回の大統領選挙は、一癖も二癖もある候補者が揃う。それに比べれば、クリントンに安心感があるのは間違いない。問題発言が相次ぎ、予測不能なトランプ、ティー・パーティー流の過激な「小さな政府」路線が予想されるクルーズ、そして、極端に「大きな政府」を主張するサンダースと、クリントン以外の誰が大統領になるにしても、これまでの常識では対応できない激変に身構えたくなる。

 しかし、ヒラリー・クリントン大統領の誕生は、それだけで政治の安定を保障するわけではない。クリントンには、国民の厚い支持を持たない「弱い大統領」になるリスクがある。いざ大統領になったとしても、強い指導力を発揮できるかどうかは疑問が残る。むしろ懸念されるのは、議会共和党の抵抗により、政治が停滞する展開だ。オバマ政権と同じように、債務上限の引き上げ等に手間取るようだと、市場の大きな不安定要因になってしまう。

 実際にクリントンは、熱狂的に支持されているわけではない。米国民は、「他の候補よりも安心できるから」という消極的な理由で、クリントンを選ぼうとしているようにみえる。大統領選挙が行われた年の春の時点で比較すると、1990年代以降の選挙で敗北したどの候補者よりも、今のクリントンの好感度は低い(図表2)。それでもクリントンが大統領の座に近いのは、さらに好感度が低いトランプ氏がいるからだ。

yasui160427-chart02.jpg

目指すはビル・クリントンの再来

 選挙の雰囲気を考えれば、クリントンが熱狂的な支持を得られていないのも無理はない。今回の選挙の通奏低音は、うっ積する有権者の不満であり、それが生み出すアウトサイダー待望論である。変化を求める機運が強く、エリート政治家は嫌われる。経済政策では、旗色の鮮明でない中道的な政策よりも、極端な政策が好まれる。外交政策では、武力行使に対するためらいが根強く、内向きな傾向がくすぶる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英アーム、通期売上高見通しが予想下回る 株価急落

ビジネス

PIMCO、金融緩和効果期待できる米国外の先進国債

ワールド

AUKUSと日本の協力求める法案、米上院で超党派議

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、S&Pは横ばい 長期金利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中